512021 JUL. Vol.438んだ生徒は、自作イラストのLINEスタンプを販売するなどし、予算を約18倍に増やして大量の消毒液を購入して送った。 「教員が思いもよらない発想で、軽々と既存の枠組みを超えていく。活動後、生徒たちは『世界と関わることは面白いし、意外と身近なんだ』と言います。我々教員のほうが、世界を遠いものに捉えているかもしれません」(山名先生) 成功例ばかりではない。あるグループはルワンダの女性活躍のため、自国の特産品を活用した洗顔料を自作して現地に送る取組をしたが、最終段階になって、実はその国は日本よりはるかに女性の社会進出が進んでいたことなどが発覚。途上国という固定観念にとらわれ「何かをしてあげる」という目線になっていたことに気づかされた。山名先生は、プロジェクトの成功より、これからの生き方につながることを重視しているという。 「授業を通して何か気づいて力になればいい。同じ条件でやって、うまくいく人・いかない人がいる、その違いは何だろう、自分の強みは何だろう…と考え始めたら、それが一番の学びではないでしょうか」 こうしたSTEAM教育を推進してきたなかで、品田先生が特に生徒の成長を感じるのは、プロジェクトで取り組んだ問いについて授業時間が終わっても考え続ける姿だという。 「彼らは今後、見たことない問題にぶちあたっても、食らいついて考え続け、自分なりの何かを生み出していくように思います。身近なイメージでいうと、海外に行って、そこで入手できた米を、どんな道具を使い、どのくらいの水分量や火加減にすればいいかを試行錯誤し、失敗を繰り返して何度目かにうまく炊けるようになるなど。わからないことにも諦めず粘るような、生命力の強さを感じます」 世界を身近なものとして関わっていこうとする生徒たちを見て、山名先生は、これからの社会で求められるコミュニケーションの方向性とも合うと考える。 「最近では、ネットワーク上に投げられたプロジェクトに世界中から参加者が集まり、テクノロジーを活用してコミュニケーションしながら形にしていくといった働き方もあると聞きます。そんな時代を生きる生徒には、多様な考えや文化をもった人たちとタッグを組み、自分の強みを活かして取り組んでいくような、我々の世代とは違う協調力が必要になるでしょう。そこに本校のSTEAM教育で学んだ経験も活かせるのではないかと思っています」 STEAM教育を活用した課題解決力育成のさらなる進展に向けて、同校は今後、社会とのつながりを一層強化していく方針だ。社会人との接点を学校側が設定し与えるのではなく、生徒が自ら探して校内に呼ぶような主体的な行動を期待していくという。 「学校の中の常識がそのまま社会の常識なのか、学校の中だけにとどまっていては見えてきません。学校の枠を超えて社会とつながり、その絶えず変化する現実を見て『面白い社会になってきた』と受け止め主体的な活動を起こせるようになってほしい」(伊藤校長) いかに社会が変化しても、建学以来大切にしてきた共生の視点は揺るがない。 「自分の思いや考えを簡単に世界に発信できる時代になり、より良い社会に向けたアプローチは多様化しています。そんなテクノロジーが進化しているからこそ、共生のためにそれをどう活用するかが重要です。君たちは一人でも世界を動かす力をもっているんだ。そう生徒たちに伝え、他者のために行動する力を育んでいきたいと考えています」(伊藤校長)わからないことにも粘り強く取り組む「面白い社会になってきた」と主体的に行動する人へ自分たちでアイデアを出し、実行していきたい授業や学校行事でiPadを使い、最初は難しかったアプリも楽に使えるようになり、資料や動画の作成では「どうしたらわかりやすく伝わるか」を意識するようになりました。何か問題を解く時とは違う頭の使い方ができて面白いです。高校時代にやってみたいのは、校内の国際交流ボランティア団体の活動のなかで、学校のみんなが世界に自然と興味をもてるような楽しいイベントを開催することです。これまでは顧問の先生から提案されて取り組む活動が多かったのですが、アイデア出しから自分たちで行い、生徒主体で実行していきたいと思います。(1年生・大おおせこ世古 葵さん)何事にも一歩を踏み出しやすくなった情報科の授業では、初めてのツールを使って短期間で何かを作ることも。最初は大変でしたが、だんだん「やりながら理解していけばいいんだ」と思うようになり、何事にも一歩を踏み出しやすくなったかなと思います。また、国際貢献プロジェクトでは、ルワンダのコーヒー豆を日本人にアピールして買ってもらうことで間接的に支援しようと取り組みました。日本人の国民性をリサーチしたところ、見知らぬ人の支援という面より、商品自体の魅力の面を強調したほうが響くのではないか、ということがわかってきました。外国の支援のための活動を通じて、自分の国について新しい発見ができたことが、私にとっての一番の収穫です。(3年生・東あずまや谷優里さん)Interview国際協力プロジェクトの授業の様子。iPadを使うチームもあれば、支援物資の制作のため木を削るチームも。知識・技能もツールも、目的に合わせて使いこなす。国際協力プロジェクトの成果発表の様子は動画を撮影し、YouTubeで校内限定公開している。
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