キャリアガイダンスVol.438
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 小林先生が教師になりたいと思ったのは高校生のときだ。部活動の仲間に数学を教える機会があり、「人をサポートして喜んでもらえるのはいいな」と感じた。大学は教育学部に進学、卒業後は「一度学校以外の社会を経験したかった」のでコンサルティング会社に就職、まずはシステムコンサルタントとして歩み出した。 「人生で一番成長させてもらった時代だったように思います。物事の考え方や、プロジェクトの回し方を学びました」 30歳のときに転職し、田園調布雙葉中学校・高校で教師となり、社会人参加型の授業を展開していく。そのねらいは「生徒がより深く考え、表現することができる環境をつくる」ことだ。 しかし、外部の協力者がいつも期待通りのパフォーマンスをしてくれるのだろうか。授業設計はどうやっているのか。 「前提として、自分よりも魅力的な人を呼ぶようにしています。ですので、企業さんの展開する出前授業プログラムのような『誰がくるのかわからない』形での連携は避けています。基本は、人づてや本で魅力的な人を見つけたら、『その人のすばらしいところを一番引き出せて、生徒も考えを深められるような問い』を考えるところから始めます。そこから授業構成を練り、私のほうから本人に直接コンタクトを取ってお願いします。もちろん断られることもあるのですが、何年もやるうちにつながりが増えていきました」 思うような授業づくりができず悩んだこともあった。生徒がICTを使ってより自由に主体的に学べるよう、ICTの学習環境の一層の整備を校内で提案してきたが、安全性への懸念などからすぐには進まず、その際はひどく落ち込んだという。 けれども、新型コロナウイルスが状況を一変させた。生徒一人ひとりに専用アカウントを用意し、各自の持つパソコンやスマホを授業に生かせる環境が整った。全校でオンライン授業が実施され、授業の情報共有に使えるWebアプリなどの使用も自然に広がっていった。2020年度からの日々は、全国の情報科の先生にとって、コロナ禍の対応に追われた大変な時期だったはずだが、「ICTの環境が整い、できることが増えた」と小林先生は前向きに受け止めている。授業ができるまでその人ならではの問いを考え外部連携の授業を立案■ 同僚の先生INTERVIEW 小林先生とは、これからの学びのあり方についてよく話をします。ICTも活用して情報のやり取りを効率的に行い、捻出した時間で、生徒が得た知識を使って問題に立ち向かったり、アイデアを交わしたり、表現したりする。そうした授業で、知識はもちろん、問題解決能力や思考力、表現力も高めたいね、と。それを小林先生は、いろいろな分野の人たちとつながり、多様な視点を学べる授業で実践されている。何よりもすごいのは、躊躇せずにどんどん動いていく、その行動力だと思います。 英語の授業のICT活用例を挙げるなら、例えば教科書で「自然から着想を得たデザイン」という話題を扱ったときに、各生徒がGoogleスライドを使い、動物から着想したデザインを考えて発表までしました。各自がアイデアを英語でスライドに記入し、Web上で共有もするといった感じです。単語や文法をただ暗記するのではなく、そうやって英語もICTも“思考や表現のツール”として実際に使いながら、間違いながら、生徒が自分で学びを深めていくプロセスを大事にしたいと思っています。英語科桜井吾朗先生ICTや英語をツールとして使って思考・表現する授業をHINT&TIPS1ICTのコンテンツやツールを使いながら多様なインプットやアウトプットを学ぶ生徒が「世の中のことを知る」ことに取り組む際に、良質な動画や、世界中の地形や統計データの変遷を追えるサイトなども紹介。得た知識を基に「考えて表現する」段階では、文書やグラフ、動画やCGを作成するアプリやソフトを活用。社会に出てからも生かせるインプットやアウトプットの手段を学ぶ。2「近すぎない」「遠すぎない」テーマで生徒が自ら真剣に考えたくなる取組に学習テーマが「菓子の企画」のように身近すぎると楽しいだけで終わりかねず、「SDGs」のように遠大だと他人事になる恐れがある。これらテーマがダメなわけではなく、授業でやるなら「エンターテインメント性と社会性のバランスを取り、近すぎず遠すぎない内容に工夫する必要がある」と小林先生は考えている。3情報共有ツールの使い分けで発言のしやすさや協働のしやすさを支援ICT活用の利点の一つはリアルタイムの情報共有や共同編集ができること。そのためのツールには、発信者がわかるものやわからないもの、図表に記入できるもの、付箋の形で表示できるものなどいろいろあり、授業の取組ごとに、どのツールだと生徒が発言や協働をしやすくなるかを考えて使い分けている。4教員が学校の外でも学び続けることで頼れる人のネットーワークが拡大小林先生は教員になったあとも、多様な社会人がクリエイティビティを研究するゼミなどに参加。「生徒に課題解決を求める以上、自分の創造性も高めたい」と思ったからだそうだが、そうして外でも学び続けることが、結果として「頼れる人とのつながりを広げることにも結びついた」という。プレゼンテーション実習の1コマ。Zoomでつながった講師のコンサルタントの方から、仕事で活用している「3C分析」「4P分析」の解説を聞いたうえで、生徒がそのフレームワークを使い、企業の製品・サービスの課題を考えた。602021 JUL. Vol.438

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