本音を話すことが高大連携の第一歩。そこから何かが見えてくる (中尾教授)いました。意欲と学力はどちらも欠かせませんが、どちらかというと最初は私も前者を重視したいと思っています。―続いて、中村先生。吉賀高校の実践(図3)と、それが生徒に与える効果についてお話しいただけますか。中村 10年近く前、青山学院大学や法政大学の学生さんが田舎体験にきたことを契機に交流が続いています。うちは全校生徒100人強の小さな学校で進路も多様。大学進学者が3分の1という環境で、東京の大学生との交流にどんな意味があるかというと、異なる背景をもつ人と接することで、地域や自分たちの学びに実はすごく価値があることに気づくわけです。例えば、河原での火起こしを大学生は悪戦苦闘しているのに自分たちはさらりとやってのける。そんなことからも「自分は何が得意で、人にどう貢献できるか」といった自己分析や、「町のことをもっと知って良くしたい」という当事者意識も生まれます。進学するしないに関係なく、いろいろなことを考える機会になっているんです。(※2)延沢 そうした経験で、進路や未来が大きく変わるかもしれませんしね。異質なものとの出会いは、それまで考えもしなかった可能性の扉を開くことなのかなと思いました。中村 ですよね。当たり前と思っていた価値を一旦壊すことで、深い学びにつなげる子もいれば、多様な人との出会いをきっかけに、地域の中でやりたす。それに伴い出前講義にもPBLの要素を取り入れていきました。答えがある学びに慣れている子どもたちに、そうではない学びがあることを知ってほしいと思っています。延沢 大学の先生って研究に没入なさるじゃないですか。その姿を高校生が見て、「学びってかっこいい、楽しそう」と思えることが大切だと思います。一方で、1の楽しさの裏には99の努力があるわけで、そこを見落とすと、「なんだ。大学に入ったらつまらんかった」となってしまいがち。なので「面白さって、苦労を背負ってでも向き合うことなんじゃないの」と伝えるのも高校教師の役目かなと思っています。中尾 確かに、良い面ばかり見せてはいけませんよね。ただ、現実的なことを言い過ぎても、やる気が失せてしまう。バランスが難しいですが、個人的には 「勉強=つらいこと」という思い込みを外すことを優先したいです。高原 「好きなことをしていれば、そのうち周辺領域で必要なことが生じ、学ばざるを得なくなる」と話す教員が配を業者さんがすることがあります。でも業者任せにすると、どうしても生徒さんは受け身になってしまいます。中尾 わかります。出前講義に行って生徒さんが前のめりだと感じるのは、高校の先生が主体的で、生徒との信頼関係も厚いように見えるクラス。やらされている感が少ないのか、後からいただく感想も心に刺さるんです。―中尾教授が十数年前から出前講義を続けてこられた理由は何でしょう。中尾 正直、最初は大学の方針でノルマ的に始めたんです。それを見透かされたのか、物理や半導体の話をしても高校生は面白がってくれません。そもそも大学の教員は教育に関心がない人も多く、私も40代頃まではそうでした。やはり研究が楽しいんです。でも、教育改革の担当となり、PBL(図2)やアクティブ・ラーニングを取り入れることで学生が目に見えて成長し、教育にやりがいを感じるようになったんで高校が変わろうとしている今、では大学はどう変わるのか (高原さん)「勉強=つらいこと」という思い込みを外したい異質なものとの出会いによって価値観を揺さぶる※2 吉賀高校の生徒さんインタビュー(11ページ)もご覧ください。図1: 高原さんの実践桜美林大学が提供する高校生向けキャリア支援プログラム。前身の取組を統合し2019年からスタート。コロナ禍の昨年も、グローバル、SDGs、アート、音楽、航空、観光、ウェディングなど70のプログラムをオンラインで開催。「探究体験」「世界探究」など探究を冠したプログラムも充実。一連の活動実績も踏まえ、2021年9月から新たな入試方式「探究入試」(Spiral)の出願を開始。高校の教育課程内外を問わず探究に取り組んできた高校生を対象に、探究学習のサイクルをどう回せたかなどを評価する。「ディスカバ!」262021 OCT. Vol.439
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