キャリアガイダンスVol.439
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学びをつなぐだけではなく、人と人とをつなぎたい (中村先生)うこと。いかにWin-Winの関係にするかミーティングを重ねています。延沢 そこは気をつけたい点です。私は有志の研究会を複数立ち上げていて、大学の先生を招いてお話を聞く機会もあるため、大学の先生が置かれた大変な立場もわかってきました。なので、高校側の都合での無理なお願いによって、貴重な研究の時間を奪っているのでは、と申し訳なくもなるのです。中尾 お気遣いありがとうございます。ただ、人に教えたり、一緒に考えたりするなかで、新たな見方や発見につながることって多いんです。ノーベル賞受賞者の数が、研究機関より大学の教員に多いのも、日常的に教育に携わっているからではないでしょうか。そのうえで、先ほどの「高大連携って広い視野で行うもの」という話につながるんですが、残念ながら大学が行う出前講義って、高校生に大学の名を売る広報目的になりやすいんですよね。そこは気をつけようと思っています。高原 確かに高大連携は、立地や学力帯を含め関係性の強い高校に偏りがちになります。高校生の成長にフォーカスするべきなのに大人の思惑が介在するとややこしくなる。とはいえ、大学は学生募集につながるかが判断材料の一つになります。「ディスカバ!」も当初は本学志願者のみを対象にしよて、携わる人すべての成長や、地域の未来などSDGs的なものにもつながると感じてきました。―最後に延沢先生。個人としてさまざまな実践(図4)を行っていると聞いていますが、例えばどのような?延沢 はい。例えば前任校では研究室訪問の「リメイク」を担当しました。生徒の課題研究と大学の研究室をマッチングしたかったんですが、それまでは、大学の先生のご専門と関係なく地元の大学に送り出すものでした。そこで範囲を東日本に広げ、生徒の研究テーマに合った研究者をreserchmap(※3)で探し、一件ずつお願いのメールを送ったんです。大学側には、専門分野の後進を育てる点で喜んでいただけて、進学につながった例もあり、双方にとっていい取組になりました。私も、大学の先生方とのご縁ができました。中村 私がいつも思うのは、高校のメリットだけを押しつけてはいけないといいことを見つける子もいます。高原 「ディスカバ!」も、進学校から進路多様校まで幅広く参加してくれることが醍醐味の一つ。普段の教室と違い、異なる高校生との出会いは、価値観を揺さぶる効果がすごくあります。中村 価値観が揺さぶられるのは大学生も同じで、卒業後、島根県で就職する学生さんもいて嬉しく思います。中尾 研究室の大学院生も、ティーチングアシスタントとして出前講義に参加するたび刺激を受けています。特に小学生は好奇心旺盛で、「なぜ、どうして?」と質問攻めですからね。 皆さんの話を伺いながら、高大連携っうと考えたこともありますが、思いとどまりました。結果として全国からさまざまな興味・関心をもつ、多様な高校生が集う学びの場をつくることができました。中尾 インターンシップの枠組みも同じで、大学の思惑と企業の思惑があって、目先の利益にとらわれると青田買いになる。そうした社会構造から抜け出さないといけませんね。―実践をひと通り伺ったところで、せっかくなので互いへの要望があれば。中尾 工科系大学の教員として少し気になることがあるのでいいですか? 探究というキーワードで高校生の発表互いにとって実りの多いWin-Winの関係をいかに築くか自ら手を伸ばし自走するマインドを育むために※3 研究者の経歴や業績を管理・発信することを目的としたインターネット上のデータベース。図3: 中村先生の実践「吉賀町の人々と共に、吉賀町の未来を創る」活動を通して、自分自身や地域社会の未来を創る力を身につけるための授業。地域の人々や卒業生、都市部の大学生と協働し、現実の社会を動かす試みを、総合的な探究の時間を中心に3年間かけてチャレンジする。キャリア教育としてだけではなく、ここ数年は探究色を強めた本格的な課題解決型学習を推進。小中高を貫く吉賀町全体の教育ビジョン「サクラマスプロジェクト」とも連動し、「小さな町の小さな学校」だからこそできる学びとなっている。アントレプレナーシップ教育図2: 中尾教授の実践「大学教育は知識や技術の伝授よりも、個々の学生に適した方法論の習得と確立を重視するべき。その点、PBLは具体的な課題を設定するため、課題解決という目標に向かって意欲的に取り組むことができ、その過程で自分の方法論を獲得する」(九州工業大学PBL教育推進室)という観点から、中尾教授が中心となり2008年に本格導入。大学生向けのアクティブな学びとして実施してきたが、高校生や小・中学生を対象とした出前講義や模擬講義にも取り入れている。PBL(課題解決型学習)高校生の「学びたい」を高校と大学がともに育てるとき高校生の「学びたい」を育てて、つなぐ、高大連携の先にある未来272021 OCT. Vol.439

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