キャリアガイダンスVol.439
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「ものづくりを通して自分をつくる」「夢を創造する」おといねっぷ美術工芸高校が生徒に発するメッセージは、「探す」「見つける」ではなく「つくる」。北海道北部の寮制高校での3年間、生徒たちはどのように自分をつくっていくのか。また、教員や地域はどのように支援しているのでしょうか。在校生、卒業生、教員、村職員に取材しました。美術を通して自分に工芸を通して社会に向き合う村立高校取材・文/江森真矢子おといねっぷ美術工芸高校(北海道・村立)第29回 北海道で一番小さな村、音威子府(おといねっぷ)。軽やかな響きの地名は、川の姿を表すアイヌ語に由来するという。中央をゆったりと流れる天塩川とその支流沿いに集落が点在する村の人口は、令和に入り700人を切った。その村がまちづくりの基幹と位置づけるのが村立おといねっぷ美術工芸高校だ。 今年度、生徒数は110人、教職員は27人。村の5人に1人は高校関係者という計算になる。生徒のうち21人は北海道外出身で、道内出身の生徒を含め全員が寮生活を送っている。 村立、工芸科、全国募集、寮、と珍しいことずくめだが、その内実を知れば、探究的なカリキュラム作りや地域と共に生徒を育てるためのヒントが見えてくるのではないだろうか。 「初めて来たとき印象に残ったのは、余るほどある自然です」と言うのは、東京出身の3年生、佐野雄亮(ゆうすけ) さん。幼少時から絵を描くのが好きだった佐野さんに同校を薦めたのは北海道に住む祖父。学校見学で先輩の作品を見て、こんな絵を描けるようになりたいと受験を決めた。半年後に卒業を控えた佐野さんは今、「音威子府でしかできないことが詰まっていました」と振り返る。幅広く美術を学べたこと、寮生活、大自然の中での散歩、全校で参加する村民運動会、たくさんの大人と触れ合う機会があったこと。「来てよかったとおじいちゃんに感謝しています」と振り返る。 同校の授業の入学者選考に実技はない。美術、工芸のいずれのコースを希望するかも尋ねない。入学すると美術・工芸の基本技術を身につけ、楽しさを味わう授業から「ものづくりを通して自分をつくる」3年間が始まる。 カリキュラムの大きな流れは1年で基礎を学び、2年で美術か工芸のコースを選択し、3年は卒業制作に取り組むというもの。佐々木雅治教頭は「授業を通して技術や考える力がつくだけでなく、寮生活や村の人との関わりのなかで、人間として総合的に成長する環境がある高校です。人に対して優しいのもうちの生徒の特徴で、3年間で誰に対しても大人の対応ができるようになることを実感しています」と言う。 3年間のカリキュラムをもう少し詳しく見ていこう。まずは1年。工芸では村から支給される鑿(のみ)や鉋(かんな)など工具類の手入れを習い、おもちゃやカトラリーといった小さなものを作りながら技術を身につける。また、大学教員から木や森について学ぶ授業は村内の北海道大学中川研究林で行われる。美術はデッサンなど平面作品が中心。頭の中にあるものを形にする術を磨きながら、自分に向いているのはどちらかを考えていく。 2年でコースに分かれると、工芸では機械を使うようになり、美術ではさまざまな手法を学ぶが、 いずれも、与えられた課題の中でコンセプトを立て、制作をする流れは共通している。工芸科長の角南(すなみ) 友繁先生曰く「生徒は美術を通して自分を知り、工芸では使う人のことも考えます。創作、アウトプットがあるから自分の得意不得意、やりたいことが見えやすく、各コースでさらに深めていきます」。  佐野さんは「おと高生は個性豊か。作品には人間性がすごく出るんですが、みんなバラバラで、同じような絵を描く人がいません」と言う。美術で自分と、工芸で他者や社会と向き合い、創作を通して自分らしさを育てていくのが、同校のキャリア教育だ。 3年ではいよいよ卒業制作、工芸では小さなスケールで試作を繰り返してものづくりを通して自分をつくる「みんなバラバラ」作品に表れる個性522021 OCT. Vol.439

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