キャリアガイダンスVol.439
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私は教育者、精神科医であり、作詞家・ミュージシャンでもありましたから言葉にはこだわりがあります。ただ、言葉だけでは人は変わらないことも実感しています。発せられた言葉よりも、その人がどのように生きてきたか。そのほうがずっと人に影響を与えるはずです。教育学部の学生に「良い教師になってほしい」のであれば、伝える側が良い先生でなければならないし、若者に「幸せになってほしい」と願うのならば、まず自分自身が幸せでなければいけません。けれども多くの場合、言うことと行動に矛盾がある。言行一致はそう簡単なことではないのです。であるならば、一致していない部分について深く考え、苦悩する。そうした姿にも表れています。 創設者の上岡一嘉先生は、国際人として外に向かう際は、同時に地元に根差す必要もあると強調しました。外だけでなく足元を見つめることの大切さ。本学の今に続く国際教育の充実も、そうした考え方がベースとなっています。 こうした恵まれた環境に、多様な考えをもつ人々が集い、矛盾や収まりの悪さも肯定しながら、いろいろな要素が溶け合う場所に本学をしていきたい。迷い、葛藤し、時に身を二つに引き裂かれながらも何かを見出していく。それが生きるということであり、そうした4年間を保障したいのです。 コロナ禍で行動は大きく制限されていますが、人の心の中は自由なままのはず。考えてはいけないことなどありません。そこには現実世界以上の広がりがあります。これからどのように生きていくかを見つめ直す絶好の機会でもあるでしょう。外の世界が「舞台」であるならば、自室はいわば「楽屋」。人のもつ二重性から考えても欠かせない、大切な場所です。楽屋にこもりながらも、表舞台に立ったときのことに思いを馳せる。精神医学では危機はチャンスという捉え方もします。悩み、葛藤しながら、この危機的状況を乗り越え、生きていく力をつけてほしいです。【学長プロフィール】きたやま・おさむ●1946年生まれ。京都府立医科大学医学部卒業。医学博士。専門は精神医学、精神分析学。ロンドン大学精神医学研究所・モーズレイ病院で研修。九州大学教授などを経て、2010年白鷗大学教授。13年副学長。17年名誉教授。21年4月より現職。ザ・フォーク・クルセダーズの元メンバーで、「あの素晴しい愛をもう一度」「戦争を知らない子供たち」など作詞家としても知られる。【大学プロフィール】1974年白鷗女子短期大学開学。86年白鷗大学開学。経営学部経営学科、法学部法律学科、教育学部発達科学科(児童教育専攻、スポーツ健康専攻、英語教育専攻、心理学専攻)の3学部に加え、大学院経営学研究科、法学研究科を擁する。建学の理念を表すスローガンとして、「さらに向こうへ」を意味するPLUS ULTRA(プルスウルトラ)を掲げる。入学定員の3分の1以上が学費減免の対象となる「学業特待制度」も実施。栃木県小山市。コロナ禍で行動は制限されても、人の心の中は自由なまま。現実世界以上の広がりがあるを見せることも、教育者には必要ではないでしょうか。 そもそも人には二重性があるものです。本音と建前、裏と表、あるいは緩さと真面目さ。両方あってこその人間ですし、自分でいるということは両者を上手く使いわけることです。その点、本学の立地は、パーソナリティの統合においても、また、新しいものを創造するうえでも適していると思います。新幹線の停車駅でもある小山駅前の本キャンパスと、同駅からバスで5分の思おもいがわ川沿いにある大行寺キャンパスを眺めていると、都市と地方、人工と自然など、相対する価値の狭間にあることの利を実感するのです。素朴でありながら都会的要素ももち合わせた学生気質̶変革に挑む̶まとめ/堀水潤一 撮影/大和田義郎白鷗大学学長北山 修552021 OCT. Vol.439

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