キャリアガイダンスVol.439
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 齋藤先生がレポート・論文指導に本格的に乗り出したのは、2005年からだ。前任校で、3年生全員に卒業論文を書かせる取組を始めた。 最初から順調にいったわけではない。 「生徒が書いた論文を読むと、矛盾点やふくらませたら面白そうな点など、その生徒の思考がもう一歩深まりそうなポイントが見えてきます。とはいえ、全員に一から十まで助言はできません。どうしたら、生徒が教員のところに来なくても、自分で考えを深めていくことができるようになるのだろう、と悩みました」 そこで考案したのが、図3の探究マップ(A3版)。論文を書く前の準備段階として、このシートを使い、自分の問いや答え、根拠をまとめることを生徒に求めた。 結果、生徒の考えを1枚で俯瞰できるようになり、助言をしやすくなった。何よりも、生徒たちが頭の中にある思いを自分で筋道立てて整理できるようになった。 「長い文章を一度書いてから手直しをするとなると、『表現を整える』だけになりがち。書き出す前にどこまで『自分の考えを組み立てる』ことをしたかがより重要であって、その後に推敲だと思うのです」 2015年からは授業のやり方も大きく変えた。それまでは、齋藤先生が板書をして生徒がノートを取っていたが、授業中に生徒が考えたことを自分で言葉にする、という振り返りを軸に据えたのだ。 2018年以降は、同僚の禰ねは覇陽子先生との出会いから、指導の方法がさらに進化する。禰覇先生が探究マップに目をとめ、自身の課題研究の授業にも活用しようと、他教科でも利用可能な新しい形を提案してくれたのだ(コラム参照)。そこから前ページでふれた「探究マップLight」が誕生した。 「禰覇先生のお話を聴いて『これだ!』と思いました。探究マップLightの特徴は、最後の部分と、最初の問いの部分が矢印でつながっていて、2周、3周と問いを更新できること。『問いを掘り下げよう』と言ってもなかなかできない生徒が多いのですが、探究マップLightを使って『もう1周しておいで』と促すと、その意図がすぐに伝わるんですよ」授業ができるまで教員がそばにいないときも生徒が思考していけるように■ 同僚の先生INTERVIEW──「探究マップLight」ができた経緯を教えていただけますか? 私は他校で課題研究の授業も担当しているのですが、生徒の活動が「調べ学習」にとどまることに課題を感じていました。そのときに齋藤先生の「探究マップ」を知り、これを活用すれば、生徒が自分で問いを掘り下げていけると思ったのです。ただ、原型の探究マップのままだと、論理の組み立てに苦手意識のある生徒にはやや敷居が高そうだったので、より取り組みやすい形を考えて、齋藤先生に相談しました。そこから「探究マップLight」が生まれたのです。──齋藤先生とは教科横断型の授業もされているのですね? 中大附属がSSHの取組を始めたときに、コンピテンシーベースの観点別評価の研究でご一緒したのがきっかけです。そのなかで見えてきたことは、中大附属の生徒も「課題発見やアウトプットを苦手としている」こと、それらの資質・能力が、学校設定教科「教養総合」(分野融合型プロジェクト授業)で向上する可能性があることでした。そこで私たちも協力してできる教養総合の実践を模索し、「人工知能と人間」という講座を開設したのです(下の写真参照)。「人間の知性」や「意味がわかる」とはどういうことか。その答えを教員が提示するのではなく、人工知能や人間について生徒が探究し、自らつかんでいくことを目指しています。情報科(兼任講師)禰ねは覇陽子先生単なる調べ学習ではない探究する授業を目指してHINT&TIPS1「良質な問い」を最初から期待しすぎず「自分の問いを掘り下げる」ことを求めるより良い問いを生み出すための方法論に齋藤先生は関心をもち、実践にも取り入れてきたが、特定のメソッドでうまくいく生徒もいれば、うまくいかない生徒もいたという。それだけに生徒には、「良質な問いから始める」ことより、「自分のなかにある問いを掘り下げていく」ことを求めている。2「自分ごとで伝えてみたいこと」ができた生徒に文章の書き方をレクチャーする日本語の文は述語中心になることや、単文・重文・複文の違いなど、授業では全体および個別に文章の書き方もレクチャーする。ただし、それは生徒が自分の考えを文章にする取組とセットという意識だ。「自分が伝えたいこと」がまだない生徒に、書き方だけ教えても身につかない、と齋藤先生は感じている。3生徒の振り返りシートを基点にして各クラスの次の授業を構成する生徒が記述した振り返りシートを基に、次の授業で投げかけることをクラスごとに変化させるのが齋藤先生の基本スタンス。「その生徒がまだ気づいていない、でも手を伸ばせば届くところ」に言葉を投げることができると、生徒は自分で考え出し、教員とのやり取りも深まっていく。それが「楽しい」という。4生徒の記述に対するリアクションはアナログの良さ(伝わりやすさ)も生かす振り返りシートへのリアクションは、要所に赤ペンで線を引き、二重丸をつけるのを基本としている。Googleフォームで振り返りを行い、オンラインでコメントを返すことも試したが、アナログの赤線や二重丸のほうが、生徒の記述のどこに注目したかを共有しやすく、生徒にも響いているのを感じたという。齋藤先生と禰覇先生による講座「人工知能と人間」。生徒同士で意見を出し合い、プログラミングもするなかで、「人工知能は何を追究しているか、どこに限界があるか」について理解を深め、それを基に「人間の知性」について考えていく。図3 原型の「探究マップ」582021 OCT. Vol.439

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