キャリアガイダンスVol.439
61/66

「理想の学問の場をつくる」。そう声を挙げ、既存の医学校と対立し新校設立運動を展開した医学生によって本学は誕生しました。そこには、学生の熱い思いに共感した学祖高橋琢也先生をはじめ、森鷗外、原敬、渋沢栄一諸氏ほか社会から多くの支援がありました。それ故、「自主自学」という建学の精神の下、「正義・友愛・奉仕」を校是とし、特に奉仕の心を育んできたのです。こうした歴史は今、自ら課題を見つけ、探究する学生さんの姿勢や、患者さんに寄り添い、社会に貢献する卒業生の姿につながっています。 さて、昨今の医療をとりまく変化が二つあります。一つは、医学の飛躍的進歩によって高度化、細分化が進んで業教育化しがちですが、大切なのは幅広い領域に対する関心やリサーチマインド。その点、本学ではボランティアほか課外活動も活発です。プログラミングの全国大会で昨年最高賞である経済産業大臣賞を受賞した2年生のテーマは「AIを用いた自動車運転能力測定装置」というユニークなものでした。 私個人は「難事率先」の家訓も手伝って、困難に向かっていくタイプです。東京大学では医学部長として面接試験の導入や診療科の再編を行い、前職では医学部設置という難事に携わりました。本学の理事長に就任したのも、入試に関する重大事象を受けてのこと。「正義・友愛・奉仕」を根幹から揺るがす不祥事で、被害者の救済措置を講じるとともに、抜本的な入試改革、大学運営の透明化、ガバナンスが機能する体制整備を進めてきました。信頼は大きく揺らぎましたが大学自体は高い能力を有しています。単科大学の利点を活かした手厚い教育を実践し、研究面を含め国際的にも評価されています。 若い人たちも人生においてさまざまな困難があるでしょうが、自ら考え、誠心誠意行動することでしか道は開かれません。自主自学、奉仕の精神を忘れず、患者さん、そして社会とともに歩む医療人になってくれることを期待します。【理事長プロフィール】やざき・よしお●1938年生まれ。東京大学医学部卒業。医学博士。91年東京大学医学部教授、95年同医学部長併任。国立国際医療センター病院長・総長、独立行政法人国立病院機構理事長、国際医療福祉大学総長などを経て、2018年より現職。【大学プロフィール】日本医学専門学校(現 日本医科大学)を退学した約450人の学生が新校設立運動を行い、1916年に東京医学講習所を設立。学祖 高橋琢也が私財を投じ、森鷗外、原敬、犬養毅、高橋是清、大隈重信、渋沢栄一など各界の有志の支援を受け、18年東京医学専門学校設立。46年東京医科大学に。医学部医学科、医学部看護学科、大学院医学研究科に加え、関東広域で附属病院(東京医科大学病院、茨城医療センター、八王子医療センター、上高地診療所)を展開。東京都新宿区。建学の精神「自主自学」および校是「正義・友愛・奉仕」の下、自ら考え、社会に尽くす医療人にいること。先進的な医療が期待される一方、患者さんを総合的に診る視点に欠ける恐れもあります。これに対応するため本学では、旧来の講座別カリキュラムを廃止、統合し、初年次から基礎医学と臨床医学を並列で学ぶ仕組みを他に先駆けて取り入れています。 もう一つの変化は、医師主導から患者主体へのシフトです。患者さんの価値観や選択が強く反映されるようになるなか、本学のミッションである「患者とともに歩む医療人を育てる」ことの意味が問われています。これに対しては、哲学、医療倫理、医療プロフェッショナリズムなどの「人間学」を6年間を通じて学ぶ体制を整えています。ややもすると医学教育はカリキュラムに縛られ職̶変革に挑む̶まとめ/堀水潤一 撮影/丸山 光学校法人東京医科大学理事長矢﨑義雄612021 OCT. Vol.439

元のページ  ../index.html#61

このブックを見る