キャリアガイダンスVol.439_別冊
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2Vol.439 別冊特集 コロナ禍のなか、「現場の医師や看護師が足りない」という問題がクローズアップされることが多くなった。そもそも「医師不足」「看護師不足」というキーワードはコロナ禍以前から盛んに報道されていた。 では、今の高校生が実際に医療従事者として働く5年後、10年後を見据えるとどうだろうか。医師・看護師の供給数は年々増加を続ける一方、人口減少で2020年代後半頃から需要は減り始める。あくまで推計データに基づくものだが、2033年には医師の需給バランスは均衡し、それ以降は医師余りになるという厚生労働省の試算もある。これを踏まえると、現在の厳しい労働環境は改善していくと考えられる。 医師余りについては、医師や看護師に対するニーズをよりきめ細かい視点で捉えることで、打開策が見えてくる。『医師免許取得後の自分を輝かせる働キャリアき方』の著者である医師の園田 唯氏は「地域別・診療科別に医師ニーズを考えることも大切」だと言う。図1は都道府県別の2036年における医師不足の予想状況を示したもの。東京都、大阪府などの大都市圏をはじめとする一部の都府県では医師は余るとされているが、北海道、青森県、岩手県など医師不足が予想される道県も少なくない。図2は診療科別の2036年における医師需要予測だが、小児科、皮膚科、精神科などは2016年時点の医師数との比較で需要は減少している一方、内科、外科、脳神経外科など2016年の医師数より需要が上回るとされている診療科もある。 要するに将来的には、医師として「どの地域で働くか」「どの診療科で働くか」がより重要なポイントになるということだ。例えば「東京都で皮膚科医として働く」なら、過当競争になるかもしれないが、「北海道で脳神経外科医として働く」のならばニーズは十分にある可能性が高いということになる。地域による偏りに関しては看護師にも当てはまる問題だ。 「医師や看護師になれば、食べていくのに困ることはないから」「家業が開業医だから」「お金が稼げそうだから」などの理由で安易にこれらの職業を選択することのリスクは、これからは高くなることが予想される。 「だからこそ、どのような医師・看護師になりたいのか、仕事の内容や働き方なども含めてキャリアプランをイメージし、自分なりの形で患者に貢献したいという目的意識をもって医療の世界を目指すことが一層重要になります」(園田氏) 同時に、医療の現場でどのような医師・看護師が求められるようになっているのかを理解することも、これからはより重要になる。キーワードのひとつは「コミュニケーション力」だ。 患者との関係でみれば、インフォームド・コンセント(病状や治療方針について医師が説明し、患者の納得を得ること)やQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)が重要視される流れのなかで、医師には患者の立場に立ったより丁寧なコミュニケーションが求められるようになっている。また、医療従事者間のコミュニケーションのあり方も変わりつつある。図3に示したように、かつては、医師をトップとして、看護師などのスタッフが医師の指示に従って動く体制が一般的だったが、今は医師と他職種がそれぞれの専門性を活かして連携し、患者の治療に当たるチーム医療が浸透しつつある。 「現場の医師の感覚でいうと、コミュニケーションが苦手な医師はまだまだ多い印象があります。上から目線で看護師をはじめとするスタッフや患者さんに接してしまう医師もいます。しかし、現場で患者と接する臨床医にとって臨機応変に相手を思取材・文/伊藤敬太郎長引くコロナ禍のなか、医師、看護師などの医療従事者の存在が今まで以上にクローズアップされている。高い使命感、倫理感をもって最前線で働く医療従事者の姿を見て、「自分も将来は医師になって病気の人を助けたい」「看護師になって社会に貢献したい」と考えた高校生も少なくないはずだ。では、アフターコロナの5年後、10年後、医療の世界はどのように変わり、求められる医師像や看護師像はどのように変わっていくのだろうか。

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