キャリアガイダンスVol.440
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は、高校の教育活動において、どのように生徒の越境経験を支援できるでしょうか。 まずは下の、ワークショップレポートをご覧ください。こちらは、日常のなかからささやかな越境を試みる、まさに1歩目の踏み出しを支援する取組です。野球選手のイチローも「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただ一つの道」と言っているように、こうした身近なところから始めて、徐々にラーニングゾーンに踏み出しやすい状態を作っていくのもひとつの手です。 そのほかにも、探してみると高校には、あらゆるところに越境の機会がありました。今回の特集では、そのなかから「知」「教科」「ルール」「同質性」「場所」の5つを取り上げ、その境界を越えることが高校生の将来に良い影響を与えると考え、その機会を創り出すことに取り組んでいるナビゲーターと、高校を取材しています。 越境の機会を創り出すだけでなく、それを単なる〝よかった〞で終わらせず、 コンフォートゾーンから抜け出すことで異なる考え方に出合い、変化や成長へと繋がっていく。―それでも、日常から離れて新しいことに挑戦するのは難しいものです。まずは生徒たちにとって日常のなかから、ささやかな越境体験を促すことはできないでしょうか。「昨日の自分と比べてちょっと踏み出す」程度の小さな行動から始めるのです。 その一例として、「スタディサプリ」で実施されたワークショップの取組をご紹介します。 昨年2月、リクルートマーケティングパートナーズ(現リクルート)とリクルートマネジメントソリューションズによる、高校生約15万人を対象とした調査※が行われ、「目標設定と振り返りのサイクルが主体性育成に大きく寄与する」ことが示唆されました。この調査結果を受けて同年12月の1カ月間、「スタディサプリ」では40名の高校生を対象に、主体性向上のためのワークショップを実施。週に1度、小さなチャレンジ目標を自ら設定し、振り返りを行うサイクルを続けてもらいました。 ワークショップのコンセプトは「ちょっとやってみた」。冒頭の導入授業では、生徒も知る偉人や著名人の、意外な「始まりの1歩」が紹介されます。例えば、アップルの創業者、スティーブ・ジョブス氏。彼の最初の1歩は、興味の赴くままにカリグラフィー(書法)の授業に潜り込んだことでした。 ジョブス氏は、将来起業することを考えて授業に出たわけではありません。「ただ気になった授業に、ちょっとだけ潜り込んでみた」程度のことが、彼の世界を変え、のちに美しいフォントをもつ革新的なコンピューター、マッキントッシュの開発へと導きました。この例のように「『ちょっとやってみた』が、みんなを想像もできないような世界へと誘うかもしれない」と講師が生徒に伝えたのです。 導入授業の内容を聞いて「小さな行動がきっかけで、予想もしない変化や、好きなこととの出合いがもたらさ学校という安全な場だからこそ、生徒は思いっきり越境できる日常のなかから、「昨日の自分を越える1歩」を始めるささやかな越境体験で、変わり始める生徒たちワークショップの流れ導入授業毎週の問いかけ生徒たちが始めた「ちょっとやってみた」の例どんなに偉大な発明や発見も、日常のなかの小さな行動=「ちょっとやってみる」から始まっていることを伝える。●今週の「ちょっとやってみた」は?●なぜやってみようと思ったのか。●やってみてどんな気づきがあるか。●来週「ちょっとやってみたい」ことは?● 話しにくいアルバイト先の先輩に、自分から話しかけてみた。●いつもより一本早い電車に乗ってみた。●ニガテなマラソンの朝トレに参加してみた。● 仲良くなりたいクラスメイトがいて、まずは自分の雰囲気を変えようと、髪型を変えてみた。※「目標設定と振り返りが『主体性の向上』に寄与」(2020.2発表)https://www.recruit-ms.co.jp/upd/newsrelease/2002092242_7016.pdf■ 生徒たちが始めたのは、登下校中や学校・アルバイト先でできる、新しい行動。■ 週1回の振り返りによって、行動のアップデートをしていく生徒も。1カ月間「ちょっとやってみた」を継続したらワークショップレポート文/塚田智恵美で102021 DEC. Vol.440

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