キャリアガイダンスVol.440
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たちは学校や社会のシステムのなかで、知らず知らずのうちに「こうあるべき」というものの見方を身につけ、固定化された視野の中に収まって生きがちです。本来はさまざまな興味・関心のセンサーをもつ複合的な自分を、そうした見えない壁の中に閉じ込めておくと、時に苦しくなるのではないでしょうか。 無意識にもつ認知の壁を自ら越えるのは難しいですが、自分の関心を引き出すような「未知」と出合うことで、そこに風穴を開けることができます。「どういうこと?」「なぜ?」という小さな問いの連鎖は、自分を取り囲む壁からちょっと頭を出して、まだ見ぬ世界を見晴らす梯子になってくれます。 「知れば知るほど、知らないことが増えていく。それが面白い」。宇宙物理学者の佐藤勝彦さんの言葉です。数学者の岡潔さんは、空気と接触する部分だけがよく燃える蝋燭の炎を例にして「知的独創は常に知と未知との境において起こる」と言いました。先達の言葉に倣えば、何をどれだけ知ったかより、いかに知ろうとするかが、これから社会に出ていく高校生には大切な力になるのではないでしょうか。 しかしながら、そのように機を得た未知と出合うことは案外難しいものです。スマホを介して興味関心の周辺にある情報とは頻繁に出合えますが、自分が見たいものしか見えてこない。そうしたいわゆる「フィルターバブル現象」によって、認知の壁を一層強固にしているのが、現代の見えない不自由さに繋がっているのだと思います。自分の内側に風穴をあけるには、異質や偶然をうまく取り込むことも大質や偶然をうまく取り込むことも大事なのです。事なのです。 編集工学研究所では、そのための 編集工学研究所では、そのための道具として本を活用することをおす道具として本を活用することをおすすめしています。本は、著者の視点すめしています。本は、著者の視点を使って思考をジャンプさせ、自分のを使って思考をジャンプさせ、自分の奥にある関心を引き出す有益なツー奥にある関心を引き出す有益なツール。その点に注目し、本を手掛かりに〝考える〞「探究型読書」というメソッドを開発しました。 この読書方法は、本文を読み始める前に表紙や目次を見て内容を想像してみることから始まります。そこで湧くほのかな好奇心を使って本文に入り、著者の思考プロセスと自分の仮説を照合しながら、全体をスキャンするように読んでいきます。本を正確に理解することよりも、自分の問題意識を起点とした思索が自由に起動することを目指します。読後の振り返りも、思考を深める大事なステップ。ここに対話を入れるとさらに効果的で、自分一人ではたどり着けない新しい見方や深淵な問いの創発も可能になります。 学校の中でも、授業や教室などの時空間にあえて小さな異質や例外を作られるといいと思います。「未知」との出合いにあふれた学校の中で、自ら認知の壁を自由に越えていける術や力を身につけることが、きっとこれからの人生を豊かにしていくと思うのです。未知との出合いが、思考の壁に風穴を開ける。何を知ったかより、いかに知ろうとするかを大切にしたいあんどう・あきこ●企業の人材開発やヴィジョン設計、教育プログラム開発などを「編集工学」を用いて支援。「編集工学」に基づく読書メソッド「探究型読書」を開発し企業や学校に展開。その手法を共著『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング)にて解説。著書に『才能をひらく編集工学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。今号より、安藤氏の連載「『問い』の編集工学」がスタートしています(50ページ~)。併せてぜひお読みください。私知の境界を越える取材・文/藤崎雅子撮影/平山 諭編集工学研究所編集工学研究所安藤昭子安藤昭子

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