キャリアガイダンスVol.440
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「本は自分の世界を広げるツール」と考える、かえつ有明中・高校。短時間で数冊の新書を大まかに読んで共有する活動や、相手に合った本をお勧めし合う活動など、本と対話を組み合わせたさまざまな活動を探究や教科の授業に取り入れている。 「本は知識を得るだけでなく、著者の視点を借りて自分の思考を深めることにも効果的なツール。一律的な本の読み方にとらわれず、もっと自由な読み方でその子なりの気づきや学びを得て、自分の世界を広げてほしい。学校でも多様な本の読み方を提供し、そこから得たものを対話でさらに広げる機会を積極的に設けたいと考えています」(副校長・佐野和之先生) 同校では教員間でも共通の本を題材に対話を行うブッククラブを定期的に開催しており、最近では『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』(安斎勇樹・塩瀬隆之)、『「探究」する学びをつくる 社会とつながるプロジェクト型学習』(藤原さと)などを取り上げた。本を使うと互いの学びが深まるという実体験をもつ教員が多く、外部で学んだ手法や他校の実践も参考に、授業への本の活用が自然な流れで進められてきた。 そんな授業の例として、学校設定教科「プロジェクト」での実践を紹介したい。今年度の高校1年生のプロジェクト科(※)では、「自分たちが社会をつくる当事者として考え行動する」ことを大きなテーマとしている。その一環として、金井達たつあき亮先生が中心となり、編集工学研究所との協働で探究型読書の手法を取り入れた「じゃない世界プロジェクト(PJ)」を開発。世の中の〝あたりまえ〞から〝そうじゃない〞世界を描く全11回のプログラムを、教頭の足立 満先生と共に各担当クラスで実施した。(図1) 「あたりまえを疑ってみることで、これまでと違う視点で世の中を見つめて発想を豊かにし、本の力を借りながら仲間と思考を深めていく。最終的に、その先に自分たちでどのような世界をつくるのかを考えていく足掛かりとするのがねらいです」(足立先生) 授業では、まず各グループが気づいたあたりまえから仮説を立てた「〇〇じゃない世界」について、それを深めるヒントになりそうな本を各自が図書館で探して持ち寄る。読前に目次から内容を想像してキーワードを抜き出してから(目次読み)、本に書かれた著者の問いとその答えに注目した読み方(QAサイクル)を各自で実施。その内容をグル「本×対話」で、他者の考えを通して自分の世界を広げ、未来をつくる当事者としての意識・力にもつなげるかえつ有明中・高校 (東京・私立)右から、副校長 佐野和之先生、教頭 足立 満先生、プロジェクト科を担当する金井達亮先生(東京大学大学院)効果的に自分の世界を広げていくため、あまり話したことのない生徒同士でグループをつくるといった工夫も。※高校に3種類あるクラスのうち一部クラスの取組「お金のない世界」をテーマに、貧富の差が生まれる原因や、経済がもたらす問題など多様な視点の本が持ち寄られた。知の境界を越える 一律ではない本の読み方を知り自分の世界を広げる契機に本を手掛かりに思考を深め自分たちがつくる社会を発想図1 「じゃない世界プロジェクト」の授業計画内容回あたりまえに気づくじゃない世界を深めるきっかけになりそうな本を選ぶ探究型読書2 読中:QAサイクルじゃない世界の仮説を問い直すじゃない世界を表現する(発表準備)じゃない世界を仮説する探究型読書1 読前:目次読み探究型読書3 読後:アナロジカル思考じゃない世界のイメージづくり(粘土ワーク)発表振り返り1357924681011取材・文/藤崎雅子1903年設立/普通科/生徒数1165人(男子666人、女子499人)/生徒と教員のフラットな関係性のもと「共感的な対話」を重視した教育を展開している。学校データ132021 DEC. Vol.440自分の枠を「越える」学び ~非連続な成長を引き出す5つの越境~「知」の境界を越える

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