キャリアガイダンスVol.440
18/66

 福岡県立八幡高校では、2019年度より教科・科目横断型授業を全校的に展開している。以前から有志の取組はあったが、現在はすべての教員が年1回以上、担当クラスで教科の境界を越えた授業を実践しているのだ。 その取組のねらいを研修部長の廣濱一郎先生は次のように語る。 「教科・科目横断型授業で、社会に出ても一つの事象について多角的かつ総合的に思考を深めていける資質・能力を育みたいと考えています。また、横断型授業を協働的な学びによって行うことで、コミュニケーション能力や情報発信能力の育成も目指しています」 具体的にはどんな授業をしているのか。国語科の上掛靖良先生は、一つの題材について「異なる言語、時代、学問」の見方まで追ってみるという授業を昔から行ってきた。 「現代文で『山月記』を読み、古典で元になった中国の『人虎伝』も読む。『徒然草』や『枕草子』を読んで、英訳にもふれる。言語学と生物学の視点から『動物は考えるか』というテーマで議論する。そうして別角度からも捉えると、内容の理解が深まり、ニュアンスが違う面白さにも気づき、生徒の食いつきが違ってくるのです。他教科の先生と組むことで、国語の題材から、英語や歴史、生物などに興味がふくらむ生徒も見られるようになりました」 家庭科の新開三重子先生は、他教科の学習内容を「実生活の視点」に結びつけて興味を引き出そうとしている。 「生活習慣病の学習では、理科の先生が血糖値やナトリウムとカリウムのバランスの解説をし、そのあとで生徒が穀物や野菜、肉の食べ方を考えました。食べることや美容・健康には生徒も興味があるので、科学を暮らしに生かすことを『今日からやってみる』と宣言し一つの物事を多角的に総合的に思考する力を育む各教科の視点を組み合わせ興味を喚起し、思考を揺さぶるてくれました」 英語科の中尾貴里恵先生も、英語学習で「実生活の視点」を重視。また、英文読解には「背景知識」も重要だという見方を育もうとしている。 「授業では人文社会から自然科学まで多岐にわたる英文にふれますが、生徒は他人事と感じ、私も専門知識がなく話を広げられず、訳して終わりになりがちです。そこを教科・科目横断型授業で、例えば平和や人権がテーマの英文を学ぶときに、社会科の先生に歴生徒も教員も「面白い」と感じる教科・科目横断型授業で多角的・総合的な思考を深め、課題解決や創造にも挑む八幡高校 (福岡・県立)後方左から時計回りに、上かみかけ掛靖良先生、大野辰たつあき晃先生、廣濱一郎先生、中尾貴里恵先生、新しんかい開三重子先生取材・文/松井大助1919年創立/普通科・理数科/生徒数829人(男子389人、女子440人)/全校的な教科・科目横断型授業のほか、普通科は探究活動を、理数科は課題研究を推進。学校データ教科の境界を越える❷図1 教科・科目横断型授業の一例(本文記載以外)教科・科目横断型授業を実施する際は、事前に指導案の概略版を全教員に配布して情報共有。教員同士でも授業見学を積極的に行っているという。教科とテーマ学習内容国語×理科×社会科言語と科学と社会学から環境倫理を考える現代文の「環境倫理」の評論を基に、生物の先生が科学的見地から環境への影響を説明し、公民の先生が倫理にふれ、3つの側面から生徒が環境倫理について議論しました。(上掛先生)理科×社会科科学と社会の両視点から地球の課題を考える気候変動への科学的対策を生徒が考えたのですが、対策を打つとなれば政治・経済の問題も絡んできます。そこを社会科の先生にふれていただき、議論を深めていきました。(大野先生)家庭科×理科乳製品の調理実習を科学する生徒が泡立て器で牛乳からバターを作る授業で、理科の先生に入っていただき、「コロイド状の乳脂肪を…」と解説してもらい、調理を科学の視点からも楽しみました。(新開先生)英語×家庭科×理科英文のうま味の話題から食文化や科学を考察西洋料理のうま味の話題の英文読解で、家庭科の先生に和食文化や出汁のことを、理科の先生に味を科学することをお話いただき、食文化や科学への理解を深めました。(中尾先生)182021 DEC. Vol.440

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る