キャリアガイダンスVol.440
21/66

 岩手県立大槌高校は、頭髪や服装の整容指導を毎月行うなど、校則が厳しいことで知られていた。しかし、同校は2019年度に大きく舵を切る。生徒会と有志の生徒、20数名からなる校則検討委員会が発足したのだ。 「本校が学校魅力化を進めるなかで、校則が時代に合うかという話も出て、見直すなら当事者である生徒にも参画してもらおう、となったのです。過去に教員だけで校則を見直したこともありますが、これからは、生徒が『与えられたものを守る』のではなく、『自分たちでルールを考え、自分たちで決めたものを守る』のが大事だと考えました」(生徒指導課 熊谷一郎先生) 今年度より校則検討委員会の主担当となった小田原理香先生は、有志の生徒を募る際に「経験値を高めてほしい生徒」にも積極的に声をかけた。 「本校の生徒は、素直さが魅力である一方で、与えられたものを疑問をもたずに受け入れてしまいがちな面もありました。校則の検討を通して、髪型一つとっても『こう思う人もいれば、反対にこう思う人もいる』などと、物事を多角的に見て深く考えることを経験してほしかったのです」 具体的には何をどう変えたのか。「最初に生徒たちに『どんな学校にしたいか』を話し合ってもらい、生徒宣言というものを作りました(写真)。いろいろな意見が出たときに、『宣言したような学校にするにはこういうルールがいいんじゃないか』と皆で立ち返ることができるように」(熊谷先生) 以降は、検討委員会の生徒一人ひとりが変えたい校則を出し合い、頭髪や服装などグループに分かれて議論し、自分たちの意見をまとめた。学校外の人の意見も知りたいと考え、地域の人や企業への聞き取り調査も行ったという。その活動を先生たちは「生徒から考えが出るのを待つ」「出てきた意見を否定しない」「こう見たらどう、などと別視点の考えも引き出す」という姿勢で見守った。 2020年度には、生徒たちが校則の見直し案を数回にわたり職員会議で提案。ツーブロックの髪型解禁、靴下の色や長さの自由化、下校時のジャージ解禁などを実現させた。 2021年度には、伝統であった校歌・応援歌の練習も見直した(コラム参照)。同校では、応援団の生徒が春に新1年生に校歌や応援歌を教えていた。ただ、その教え方は威圧的、強制的で、コロナ禍で一時中止となったのを機身近で切実な校則の見直しを通して「変えられる」実感を手にし、自分たちで社会のあり方を考え、つくっていく姿勢を育む大槌高校 (岩手・県立)左から、指導教諭 熊谷一郎先生、生徒指導課 小田原理香先生校舎の昇降口に飾ってある「大槌高校生徒宣言」。生徒たちが「学校生活を送る上で拠って立つべき理想」をまとめたものだ。校舎に足を踏み入れた人は、まずこの生徒宣言と対面することになる。「与えられたものを守る」から「自分たちで考えて決める」に生徒が学校の理想像を描きそこに向かうルールを考える取材・文/松井大助ルールの境界を越える❶1919年創立/普通科/149人(男子71人、女子78人)/大槌高校魅力化プロジェクトや復興研究会で生徒主体の活動を推進。学校データ212021 DEC. Vol.440自分の枠を「越える」学び ~非連続な成長を引き出す5つの越境~「ルール」の境界を越える

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る