キャリアガイダンスVol.440
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したいのです」 ノーチャイムもまた「生きる知恵」を学ぶ機会になっているという。チャイムがないので授業に出遅れる生徒もいるが、その失敗から、友達との会話の切り上げ方や、次の準備を始めるタイミングを、生徒自身が考えるようになった。「あの先生は早く来るから早めに動こう、あの先生は時間ぴったりだからまだ大丈夫」といった柔軟性も発揮するようになった。 ルールや制度もないところから、生徒の声を拾い上げて活動を生み出すこともしている。佐々木美加先生は「生徒がやりたいと言ったことのサポート」を重視してきた。生徒たちの同好会の設立を手伝い、保育士志望で集団面接の練習をしたい生徒がいれば、協力者を募って場をつくるというように。 5年前には沖縄戦に関心をもつ生徒から「みんなでディスカッションをしてみたい」と相談され、ほかの生徒も巻き込んで開催。生徒から「討論を続けたい」という声が出たので、場所や日時の調整で協力し、教員に頼らずとも生徒同士で評価し合えるようルーブリックを作成した。医学部志望の生徒が「医療の討論もしてみたい」というので、ほかの医学部志望者を誘うのも手伝い、ICT化で全校生徒がオンラインでつながると、生徒たちがシステムを使った討論にも乗り出すのを見守った。 生徒が意欲的だったとはいえ、活動が広がった要因はそれだけではない。「生徒には『自分たちでどんどんやるのは憚られる』という感覚があるんです。思いをなかなか口にできない生徒もいます。ですのでアンテナを広げて、やりたそうな生徒がいれば『相談にくれば手伝うよ』と声をかけ、背中を押しています」(佐々木先生) ある生徒は、コロナ禍に学校の手洗い場の固形石けんをポンプ式の液体石けんに変えることを提案し、実現させた(コラム参照)。そんな意見表明も「この学校は校則もないし、普段から人任せにせず自分で考えることを歓迎してくれているので、言いやすかった」という。「勉強という物差しだけでは測れない、生徒の多様な可能性が表出するようになり、結果としてその経験が入試の面接や活動報告にも生きるようになりました」(堀内教頭) ルールという枠を越え、自らの考えでやりたいことを行動に起こすようになってきた生徒たち。その成長を一層後押しできるように、今後さらに推し進めたいのが「知らない世界」との邂逅だ。海外の修学旅行生を積極的に受け入れて交流の場を作り、企業の協力を得て、職場の企画会議への生徒の参加など「より踏み込んだ職場体験」ができないかも模索している。「今の日本の学校は、グローバルな環境とはかけ離れていて、実社会ともズレがあります。その学校の枠を越えた世界にふれて、生徒自身が何かを感じ、自分の目標を見つけてほしいのです。そうして自走し始めた生徒を、教職員が黒子のように支えられたらと思っています」(堀内教頭) 生徒を「育てる」のではなく、生徒が「育つ」環境を作りたい。佐藤校長はそう考えているという。声を拾い、背中を押して生徒の主体性を引き出す外の世界にふれる場も作り生徒の自走を後押ししたいカジュアルデーが好きです。友達の私服が新鮮だったりと、発見があるからです。前は親が用意してくれていた服を自分で選んで買うようになり、季節感や合わせ方も考えるようになりました。今度のスペシャルカジュアルデーはネットで服を探し、カチューシャを手作りし、9人で同じ格好をします。友達と計画するのがすごく楽しいので、大学でもこうした活動を勉強と両立させたいです。(3年生・河野桜子さん)カジュアルデーで計画する楽しさを知る映像に興味があったところ、ケーブルテレビに高校生の作った動画を放送する企画がある、と先生が教えてくださり、参加しました。1、2年次は留学生や部活動を取材。3年次の文化祭の撮影は、分刻みのスケジュールで、ノーチャイムで時間管理に慣れていても大変でした。楽しかったのは、何も決まっていないところから全部自分で形にできたこと。将来は映像の仕事に就きたいです。(3年生・星野華かのん音さん)学校の外ともつながりゼロから自分で形づくるコロナ禍に「学校の固形石けんは抵抗があって使わない人が多い」と思い、衛生環境向上のためにハンドソープへの変更を提案しました。先生に相談し、アンケートを取り、費用を見積もり、人生初の企画書を作って。思いを実現させる難しさを感じましたが、変えられたことが自信にもなりました。自由時間が多い大学でも「自分が何をしたいのか」を大事にしていきたいです。(3年生・小林治はるひこ比古さん)コロナ禍に課題を発見学校のあり方を変える自分たちで考え、創り始めた生徒たちの声小林さんの生徒アンケート。固形石けんへの抵抗感の強さが明らかに。242021 DEC. Vol.440

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