キャリアガイダンスVol.440
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 生徒に主体的に考え行動する力をつけてほしい。そのきっかけとなる経験を高校3年間のうちにさせてあげたい。そのためには、校内にとどまらず、積極的に外とつながることが不可欠である。そうした考えの下、倉敷高校では学校の枠を外して活動の輪を広げる取組が進んでいる。取組を先導してきた浅井克憲先生は、「〝やらされ感〞があり主体性が足りていないのが、本校の生徒の課題だった。学校の中だけでは、生徒は成長しない」と述べる。 「日常的かつ同質的な校内での学びだけでなく、普段は得られないような刺激を受ける非日常の教育活動が必要だと、常々感じてきました。例えば、部活動における他校の生徒や先生との交流や協働的な活動を通して、生徒は大きく成長します。そうした経験ができる場をより多くつくりたいと考え、校内外に縦・横のつながりを広げることに努めてきました」(浅井先生) 横に広げる取組のひとつが、GLE(グローバル・リーダーシップ・エデュケーション)だ。GLEは、グローバル人材の育成を目的とした実践型教育プログラム。小中高生が中心となり、海外のアーティストを招聘したイベントを企画・運営することを通して、主体性やコミュニケーション力、判断力といった資質・能力を身につけていく。倉敷高校に先駆けて長崎南山高校(長崎・私立)や松風塾高校(青森・私立)が実践しており、倉敷高校は一昨年度(2019年度)より実践校に加わった。GLEとして掲げる「グローバルリーダーシップ」に「シチズンシップ」「フレンドシップ」を加えて倉敷高校のGLEの3本柱とし、他者を尊重・理解し、他者と関わり、共に活動するといった能力を育てることを取組の軸に定めた。 1年目は、川崎医療福祉大学の特別協力により大学の記念講堂でラテンジャズコンサートを開催。生徒会メンバーと有志、吹奏楽部員ら学年混合の40名程度からなるGLE実行委員会を結成し、イベントの企画、広報、楽器や舞台の準備などを主体的に担った。また、指導・助言役として、川崎医療福祉大学の学生も年間を通して参加した。1部は他校(長崎南山高校・松風塾高校)と共通(別日開催)のコンサート、2部は各校独自の生徒企画という構成で、他校とはSkypeを使ってつながり、情報を共有・交換しながらイベントを作り上げていった。「GLEに関わった生徒は、驚くほどに成長した」と浅井先生。「それまではどこか受け身だった進路への意識や勉強への姿勢も変わり、自分の夢に向かって主体的に大学を選択し、自ら道を拓いていった。きっかけや環境さえあれば生徒は変わっていくのだと実感した」と振り返る。 学校を越えた協働が飛躍的に進んだのが昨年度だ。コロナ禍のなかGLEはオンライン開催となり、「世界とつながるオンライン文化祭」と称して秋に2日間にわたって開催されることになった。本番に向け、各校のGLE実行委員の代表が集まるオンライン会議を2週間に1回ほど実施。各校で出た意見を持ち寄り、議論を重ね、決まったことを再び持ち帰って検討する…ということを繰り返しながら、イベントのコンセプトづくりから役割分担などの実務的な部分まで少しずつ詰めていった。 他校の生徒との交流・協働に加え、広告・宣伝のプロによる研修や外部アドバイザーによるサポートなど、社会人とふれあう機会が多いのもGLEの特徴だ。昨年度までGLEの担当だった向井崇真先生は、「アーティストに送るメールの内容を考えたり、第一線で活躍する社会人の方の意見を聞いたりといった社会とつながる経験は、生徒にとって大きな刺激になったようだ」と言う。本番は盛況で、YouTube配信の視聴者は300人近くにまで上った。 今年度は、コロナ禍の状況を鑑みてアーティストのコンサートは自粛し、倉学校という枠の中だけでは、生徒は成長しない。縦に横につながり、出合いの機会を拡げていく倉敷高校 (岡山・私立)左から、普通科総合探究コース2年学年主任・野村正和先生、普通科総合事業部・向井崇真先生、普通科総合事業部長・浅井克憲先生同質性の境界を越える 生徒の成長には、学校の枠を越えた非日常の学びが必要3校の生徒が協働してオンライン文化祭を開催取材・文/笹原風花1960年創立/普通科・商業科/1108人(男子689人、女子419人)/新時代の高校を創造する「倉敷クエスト」を掲げ、教育改革を推進中。学校データ262021 DEC. Vol.440

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