キャリアガイダンスVol.440
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 生徒全員が2年次に、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドのいずれかに1年間という長期留学を体験する郁文館グローバル高校。留学期間中に現地で取得した単位を同校の単位として認定するため、帰国後はそのまま3年生に進級できる留学制度だ。 特徴的なのは、同じ学校に一人ずつしか留学させない「1人1校1年間」、一つのホストファミリーの受け入れは一人限定とするなど、日本語を使える環境を徹底してシャットアウトしていることだ。日本にいる家族とのメールや電話も基本は禁止し、家族と連絡を取る場合は手紙を推奨している。 こうした厳しい制度を設計した理由は、留学によって「世界で通用する英語力」はもちろん、「自立心」「タフネスさ」を身につけさせようとしているからだ。「本校が育成したいのは、国境を越えて活躍するグローバル人材です。そのために必要な自立心は孤独で厳しい環境の中でこそ育まれ、成長できると考えています。帰国した生徒たちは脳の言語回路が英語中心に変化していたり、自信に満ちあふれ飛躍的に成長しています」(都筑敏史教頭) 「1人1校1年間」は成長のための負荷をかけるためだけでなく、生徒によってはリスタートのきっかけにもなるという。 「周りからどう見られるかを気にしすぎることなく、自分らしさをもっと表に出したいと思っている生徒も少なくありません。まったく知らない人たちの中に飛び込んでいくことによって、新しい自分になれる機会でもあるのです」(山田顕規先生) 生徒全員が厳しい環境に入るからこそ、生徒たちの越境を支援し成長を遂げる後押しをする仕組みを同校では手厚く配備している。 第1に、留学先の選定は、生徒が何を学びたいか、将来どうしたいかの希望を担任が細かくヒアリング。その内容に合わせて各生徒が一番成長できる連携校を先生たちがマッチングしていく「オーダーメイドの留学」を実現している。帰国後の3学年では生徒たちが自分のテーマで課題研究を行うため、研究テーマに近い内容を学べる学校を選んだり、研究テーマが未決の生徒でも、興味関心や得意なことなどと関連のある学校や地域を選定し、生徒たちがやりたいことを見つけられる可能性を高めているという。 留学前の1年次の学習では、英検Ⓡ2級まで取得するよう指導。また、異文化の中で戸惑うことがないよう、宗教などに基づく生活習慣や振る舞い方などの指導も実施。心のケアのために、専門のカウンセラーが生徒に寄り添い、折れない心を育む「レジリエンス教育」も行っている。 留学中も常に担任とのやり取りがある。コロナ禍ではオンライン面談になったが、通常は担任も年に3〜4回、長期間現地に渡って個別にカウンセリングを行い、生徒の生活や学習状況を把握しフォローを行う。また、エージェント契約している日本人アドバイザーが現地に常駐して生徒たちの心身とものケアをし、日本にいる担任と密接に連携している。 さらに、現地への適応という最初の壁をうまく乗り越えた生徒たちには、成長速度を上げる負荷もかけている。 「例えば、学業や生活を支えてくれている現地の学校やホストファミリーに対し、してもらうばかりでなく、自分は日本語をシャットアウトし孤独の中で真の国際性を育成異国の地で確かな成長を後押しする多様な仕組み〝1人1校1年間〞の全員留学で、生徒たちの自立心と自己肯定感が育まれる郁文館グローバル高校 (東京・私立)都筑敏史先生(教頭)紺野彩織先生(数学科)南光秀人先生(理科)山田顕規先生(国語科)場所の境界を越える❶ 取材・文/長島佳子1889年創立/普通科(Liberal Arts Track、Global Science Trackの2コース)/生徒数271名(男子137名、女子134名)/2年生全員の1年間留学のほか、海外研修も実施するなど、グローバル教育が充実。学校データ日本語を完全に絶った環境で飛躍的な成長を遂げる2年次の留学(上)。1年生と、留学から帰国した3年生が共に学ぶ協働ゼミ(下)。302021 DEC. Vol.440

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