キャリアガイダンスVol.440
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たちを選んでいる。生徒の心を動かすのは大人の本気が通じたときだからだ。実は同校はコンソーシアムの協力によって、コロナ禍中も生徒たちが地域に出て本気の大人たちと出会う、対面でのキャリア教育を継続できていた。 「こちらが躊躇していたのに、『生徒たちの成長の機会を奪うべきではない』と申し出てくれ、講演会やインターンシップを受け入れてくれた地域の方々には感謝しかありません」(土方校長) 緊急事態宣言などで遠方からの招聘が難しい講師の講演会はオンラインで実施。また、例年は生徒たちが遠方に赴き、複数の高校が対面で一堂に集まる小規模校サミットなどのイベントもオンラインで開催。中止になったイベントもあったが、県内・県外の高校生同士の交流機会も減らさない努力をしている。 同校では地域課題解決型の探究活動を通して多様な立場や年代の人々との交流を経験することで、さまざまな気づきから自分のやりたいことを見つけ、主体的に自走している生徒が増えてきている。なかでも、他校の高校生との交流から、同年代が楽しそうに探究活動に取り組む様子に刺激を受けて、自分たちもやりたい、やらねばと奮起する生徒が多いという。 「一度学校外の人とつながると、外に出ることは意外と簡単なのだと気づき、生徒たちは水を得た魚のようにつながりたい人を探してつながっていきます。その成長度合いは伴走するこちらが戸惑うほどです。一人の生徒がそうなると、周りにもいい影響を与えています」(五いらご十子幸成先生) 学校外の人との交流が始まると、生徒たちは自分のやりたいことを言語化して「伝える」スキルが必要だと理解し始める。特にオンラインでは表情が限定的にしか伝わらないので、言葉での表現が重要となる。思いに共感してくれれば協力してくれる大人がたくさんいるが、思いが伝わらないと人は動いてくれないことにも気づき、表現力を磨く努力をするようになってきた。例えば、学校のプロモーションビデオを作ろうとしている生徒が、自分の制作物に説得力をもたせるために、中学生が進路選択に何を重視するかのアンケートとともにプレゼンするなどの工夫をしている。 少子化・過疎化の地域で育ってきた同校の生徒たちは、以前は自分たちの枠を決めてしまい、自分に対する限界感をもっていたという。 「地域や外の世界のことを知らないから枠ができてしまうのです。『飯南には何もない』と言っていた生徒が、知ることで地域を好きになります。生徒がやりたいことを見つけ、自分で学びを深めるきっかけは、彼らにいろいろな世界を見せ、彼らが思い込んでいた枠を取り払ってあげること。何がそのスイッチを入れるかは生徒個別に異なるため、学校はなるべく多くの大人や社会を見せてあげる必要があります。オンラインを使えば、場所の制約を越えて広い場所から多くの機会を提供してあげられると思います」(土方校長)。 対面だから伝わる熱量と、オンラインだから広げられる世界の相乗効果で、同校の学びが深まっている。オンラインで場所の越境を体験した生徒たちの声新菜さん:地元名産のお茶を広めるために、緑茶ラテアートをカフェで提供する活動をがんばり、消極的だった自分が積極的になれました。コロナ禍で活動中断中にオンラインで交流した他県の生徒が、コロナ禍だからこそ、困っている飲食店のためのテイクアウトプロジェクトを考えて実行していて、すごいなと。自分ももっと地域の役に立ちたくて、地域活動の募集があると片っ端から申し込んでいます。碧里さん:飯南地域の魅力を伝えるイベントを計画中で、先生から紹介された大学生にPR方法を相談しているうちに、その人からNPOを紹介されるなど、オンラインを使ってつながりがどんどん広がっていきました。イベントにキッチンカーを出してくれる人が出てきたり、三重県の担当者が協力したいとアプローチしてきてくれたり、話が大きく広がってワクワクしています。大人たちが協力してくれるのは私たちが高校生だから。高校生ブランドがなくなっても信頼してもらえる関係性を在校中につくる努力をしています。オンラインを通してどんどん人とつながり、活動が広がった!青木新わかな菜さん(左)青木碧みどり里さん(右)※3年生の双子の姉妹去年、コロナ禍のためオンラインで県外の高校生が集まる交流会に参加し、他校の生徒が地域課題に対して自分たち主体で多様な活動を行っていることを知りました。みんなすごい熱量で楽しそうで。その熱にあてられて「今まで自分はいったい何をやってたんだ?」と思ったんです。自分も自校のために何かやりたいと決意し、飯南高校のプロモーションビデオを作ることにしました。高校入試の前に学校のホームページやYouTubeチャンネルで配信する予定で鋭意制作中です。飯南高校は生徒がやりたいことを叶えようと手を伸ばすと必ず先生が背中を押してくれる学校なので、自分も手を伸ばし続けたいです。他校の生徒の熱にあてられ、自分もやりたい!と思った椋倉 悠さん(3年生)一歩踏み出した生徒たちは自走して世界を広げていく広い世界を見せることで個々の生徒の興味を喚起する332021 DEC. Vol.440自分の枠を「越える」学び ~非連続な成長を引き出す5つの越境~「場所」の境界を越える

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