キャリアガイダンスVol.440
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程を5段階で整理してみました。▼レベル1 異文化への横断 異なる状況やコミュニティをまたぎ、境界を越えた段階。▼レベル2 文化的動揺と抵抗 そこには、それまでの当たり前とは違う文化があるため、多かれ少なかれ動揺が生じます。違和感を抱いたり、抵抗したりすることも普通です。▼レベル3 異文化専有 抵抗したままで終わることも多いのですが、相手の文化を取り入れたり、双方の文化を組み合わせたりすることで、むしろ差異を活かした新しい知や実践や関係性の萌芽が出現します。▼レベル4 知のローカライズ 創造した萌芽的な知を、現場の実態に合わせてローカライズし、具現化していく過程。▼レベル5 越境的対話の拡大 そうした越境経験の面白さや可能性への気づきから、他の人や活動にも波及したり、新たに別のコミュニティとのつながりが生まれたりするなど、越境的対話が拡がっていく段階。 以上の5つの段階は便宜的な区分であり、この順番通りに進むとは限りませんし、行き来することもあります。 いずれにしても、こうした段階があることを知っておくと、越境体験に抵抗を示す教員や生徒がいたとしても、それは自然の反応だと思えるし、「一歩踏み出し、まずは相手を受け容れてみては」と促すこともできるでしょう。 ここまで、越境の必要性について述べてきましたが、単に「外にどんどん出ていくことが良いことで、内にこもることは悪いこと」と言いたいわけではありません。また境界は、ただ取り除くべき不要なものでもありません。集団と集団を隔てる境界には、必要な側面もたくさんあるのです。 例えば、心理的安全性を感じられること。家族や地域という枠組みが典型ですが、何かあったときに安心して戻ってこられるホームのような場所があることは心の安定にとって大切なことです。また、境界があるからこそ独自の文化が醸成されるわけだし、自集団への愛着や連帯感も生まれます。他の人は理解を示さないような濃い話が尽きることなくできる仲間の存在などは掛けがえのないものです。 差異についても、解消すべき悪などではありません。そもそも違いとは、人間が何かを愛する時の根本原理。自分にないものをもっているからリスペクトの対象になるわけです。ですから、差異は差異として生かしつつ、変化のための重要な原動力とする。あるいは差異を出発点として新たな関係を再デザインする。越境とは、古い境界から新たな境界へと、境界を変容させていく実践ともいえるのです。 そうしたことを踏まえ、学校現場でできる越境体験にはどのようなものがあるでしょう。 実は、異なる文化をもつ他者とは何も学校の外にだけいるわけではありません。生徒には一人ひとり、それまで培った独自の経験、考え方、価値観、得意な事柄があります。経験してきた文脈(家庭、幼児保育、趣味等)が異なるからです。その意味で、教室内の人たちも異質な者同士であるといえ、その差異を生かすことができればさらに学びの可能性は広がります。 ところが、普段の一斉形式の授業ではそうした違いが見えにくい、生かしにくい点があると、私自身は感じます。「未習熟の学習者に新しい知識を教える」という前提で授業文脈がつくられているとなおさらです。 一方で、文化祭などの学校行事で差異は解消すべき悪者ではなく変化のための重要な原動力図 越境の5段階プロセス差異を差異として生かしつつ、変化の重要な原動力に一人ひとりの個性を際立たせ、違いを知ることからスタート異文化への横断レベル1文化的動揺と抵抗レベル2異文化専有レベル3知のローカライズレベル4越境的対話の拡大レベル5

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