キャリアガイダンスVol.440
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は生徒の個性が顕在化しやすいですよね。特徴がないと思っていた生徒が楽器を演奏したり、クラスメイトをうまくまとめたりなど、普段は見せない表情を見せることで、「あいつ、こんな一面があったんだ」と対話がはじまり、関係性が編み直されることもあるでしょう。人は常に場や文脈とセット。いかに生徒一人ひとりの多面性が可視化され発揮される場や文脈のバリエーションを用意できるかが重要そうです。 教科の学習にしても、プラン通り進めようとすると、どうしても先生の裁量や一般的な授業の枠組みの中で生徒が動いてしまいますが、そこにどう転がるかわからない不確定要素が含まれていると生徒の特性が浮かぶ状況が生まれやすいかもしれません。 学校外の組織と連携することは、不確定要素を生み、生徒の視野をさらに広げる絶好の機会です。近年は、社会起業家やNPOをはじめ、社会課題等の解決に向けてユニークな活動に取り組む団体が身近にたくさん存在しています。そういう組織は往々にして発想が豊かで熱意や実行力があり、しかもオープン。ちなみに私のゼミでは、外部のNPOや企業やアーティストらとつながり、普段の授業ではスポットライトの当たりにくい学生たちの趣味や特技を生かした地域活動にチャレンジしています。例えば、DJやモデル経験のある学生がファッションショーを企画したり、サッカー経験のある学生がチャリティフットサルイベントを企画し施設に寄付をしたり。その過程では、生徒に対する外部の方の真摯な関わり方に、私自身が良い刺激を受けることが多々あります。 学校の外に生徒を出すリスクを懸念する声もあるかもしれませんが、できるだけ学校全体で建設的にアイデアを出し合いながら進めることも、取組への理解や愛着、動機を共有し高めることに役立ちます。 もっとも、意識して越境の機会を設けずとも、子どもたちは今、強制的な越境の渦中に身をさらされているとも思っています。一つはコロナ禍。生活スタイルが一変し、当たり前が当たり前でなかったと実感したことで、これまでの自分たちのあり方を振り返らざるを得ませんし、今後どこへ向かえばいいかも問われているわけです。 さらには、私の最近の研究テーマでもあるのですが、SDGsに象徴されるように、これまでの資本主義が多くの矛盾を抱え、ポスト資本主義に向け社会システム全体が大きく変わろうとしています。正解などないなか、どう生き、どういう社会をつくっていきたいかそれぞれが当事者として考えなくてはいけない時代です。既存のシステムの中で生きていくだけでなく、少しでも新しい道具や仕組みを自ら生み出すことにチャレンジする機会をつくり、「異質な他者と協力すればやれる」という感覚を育むことも、学校に課せられた使命だと思うのです。 そのとき先生方はどうあるべきか。生徒同様、先生方も一人ひとり異なる教育観や教育実践の経験をおもちでしょう。日々の教室の中で、生きた一回性の貴重な経験をしてこられ、それが教育観の変化に影響を与えていると思います。そうだとしても、では、「あのときの生徒の言葉が忘れられない」とか、「今、こんな辛い思いをしている」といった私的感情を含め、個々の経験や思いを共有し、互いにケアする機会はどのくらいあるでしょうか。教室の壁、教科の壁などの境界に隔てられ、対話の機会がつくりにくい状況もあるかもしれません。けれど、さまざまな思いが混交、交響し始めたとき、学校の中に新たな知や関係性が築かれていくのだと思います。そうした先生方同士の関係性は、生徒との関係にもつながっていくはずです。多様な経験や考えが混交したとき新たな知や関係性が築かれる強制的な越境の渦中にある現代社会で、教育ができること372021 DEC. Vol.440自分の枠を「越える」学び ~非連続な成長を引き出す5つの越境~越境がもたらす「第三の知」と、新たな関係性の構築

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