キャリアガイダンスVol.440
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「問う」という行為もまた「情報の編集」にほかなりません。では、一人ひとりの中から「問いという情報」が引き出されるには、どういった編集のプロセスをたどる必要があるでしょうか。「問い」はなんであれ、内面の了解と外側の世界のズレから生じるものです。既知と未知が踵を接するところに、その先の探究心を駆り立てる問いのタネが潜んでいるとすれば、誰にも問うべき事柄は豊富にあるはずです。ただ、与えられた問いに答え続けるうちに、その可能性に蓋がされてしまうのかもしれません。その人ならではの豊かな「問い」が芽を出すためには、踏み固められた社会通念の殻を切り崩して、好奇心の土壌を柔らかく耕しておく必要があります。その下準備なしに「課題の設定」を求められると、場面に最適化された「答えめいた問い」が断続的に出てくるばかりで、これでは本来の探究心を引き出すトリガーになりえません。 探究とはつまり、問いの連鎖を内側に引き起こす知的活動です。知るほどに、知りたいことが増えていく。問いの成果もまた、「答え」ではなく「次の問い」であるはずです。 この連載では、そうした探究活動の基盤をつくるプロセスを、編集工学の観点から紐解いていきたいと思います。探究学習の最初のステップとなる「課題の設定」にいたるまでに、次のページでご紹介するような段階を経ることになります。スタート地点に立つまでの手間は多少かかりますが、自分の力で発芽した問いは、生徒それぞれの好奇心に根を張り、力強い探究心へと育っていくことでしょう。本連載では、すぐに実践できるさまざまな「編集の型」もご紹介していきますので、ぜひ教室で活用してみてください。視されるようになっています。しかしこの「課題の設定」こそが、最も難しい「課題」ではないでしょうか?「問う」とは、その人の知性や経験や勇気が投影されるすぐれて知的な営みです。同時に「問う」ことは、時に自分や世界を変革する大きなエネルギーになりえます。的確な「問い」には固まってしまったものを動かす力がありますし、「問う力」は道なき道を行くうえでの必要不可欠な基礎体力になります。その前提は多くの人が共有し始めているのに、肝心な「問い方」がわからない。このことは、今を生きる人々が世代を問わず直面している共通の課題なのではないかと思います。 編集工学は、この世にあるすべてものを「情報」として捉え、その情報を扱う営みを「編集」とみなして、人間に本来備わる「編集力」の可能性を広げる方法の体系です。この編集工学の観点から見ると、「答え方」はたくさん練習したけど「問い方」を学んでこなかった││ある企業の人事担当の方が、ポツリと言ったことが長らくひっかかっていました。「答え」を出すための方法論は世にあふれるほどにあるけれど、「問い」を導く力はどうすれば鍛えられるのか? 教育現場でも、自ら「課題の設定」をするところから始まる「探究学習」が重「課題の設定」という難題「問い」の成果は「次の問い」探究の基盤をつくる「問いの編集工学」安藤昭子あんどう・あきこ● 編集工学研究所・専務取締役。出版社で書籍編集や事業開発に従事した後、2010年に編集工学研究所に入社。企業の人材開発や理念・ヴィジョン設計、教育プログラム開発や大学図書館改編など、多領域にわたる課題解決や価値創造の方法を「編集工学」を用いて開発・支援している。2020年には「編集工学」に基づく読書メソッド「探究型読書」を開発し、企業や学校に展開中。著書に、『才能をひらく編集工学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング)など。次号から、「問い」をテーマとした連載がスタートします。ご執筆は、本号特集にもご登場いだいた、編集工学研究所の安藤さん。連載第0回として、これからお話いただく内容の全体像に加え、背景にある環境・想いについても、ご紹介をいただきます。502021 DEC. Vol.440

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