キャリアガイダンスVol.440
57/66

572021 DEC. Vol.440とのコミュニケーションのなかで「自分の良さは人の話を聞けること」と気づき、それを活かして教員を目指すようになった生徒もいる。それぞれの得意や興味・関心を基にした進路選択が目立つ。 また、地域課題に取り組んだ経験から、将来も地域に関わっていきたいと考える生徒が増えている。その意欲は喜ばしいことだが、大学進学希望の場合、志望先が地元国立大学の地域創生に関する学部に集中する傾向がある。小田原さんは同校着任時、その点に違和感をもったという。 「どの学部でも、学んだ学問を使った地域貢献の仕方があるはず」。そこで今年度、大学生と対話する全校生徒対象のキャリア教育セミナー「COLLABORATIVE SEMINAR」を立ち上げた。全国各地で多様な学問分野を学んでいる12人の大学生・大学院生と、同校をオンラインで接続。生徒はグループに分かれてそれぞれの学生の学問分野についてレクチャーを受け、その学問が地域の活性化にどのようにつながる可能性があるかなどを話し合った。例えば、建築学を専攻している学生とは、地域で盛んな林業と建築学を組み合わせると何ができそうかを話題にディスカッションした。 「世の中にはいろんな学問がある。もっと自分の得意なことを活かせる学問があるかもしれない。全国各地の多様な学問を学んでいる先輩たちとの対話を参考に、生徒たちにはもっと広い視野をもって将来の可能性を広げてほしいと考えています」(小田原さん) 同校への入学者数は20年度に16人まで落ち込んだが、21年度は26人と上向いた。その内訳を見ると町外出身者が数字を引き上げており、全国募集による県外出身者も約4人に1人にまで増加している。 かつて大半を地域の子どもたちが占めていた同校では、急速に多様性が高まり、それが新たな魅力となっている。 「さまざまな考え方や授業姿勢をもつ生徒も入ってきて、お互いに刺激を与え合っているなと感じています。『当たり前だと思っていたことは本当にそうなのか?』と、生徒も教員も改めて見つめ直すきっかけになり、議論につながることもあります」(柴田先生) 生徒の多様化が良い循環を生んでいるのは、同校の受容性の高さゆえだろう。多様な生徒を受け入れ肯定していく教員の姿勢は、生徒の間にも浸透。互いを受容し合う環境の下、生徒は特にコミュニケーション面で大きく成長している。 「入学時は人前で声を出すのが難しい生徒も珍しくありません。しかし、教員の働きかけからお互いの良さを認め合える雰囲気ができていき、自分の気持ちを伝えられるようになっています」(柴田先生) 「自分を出せなかった生徒が一言でも発言できるようになったのも、話すことはできていた生徒が後輩の話を引き出すことができるようになったのも、どちらも素晴らしいこと。自分なり成長の形を見せてくれるのが嬉しい」(小田原さん) そんな生徒の成長が教員の誇りだ。学校存続の鍵を握る来年度生徒募集のための活動も山場にさしかかっているが、どの教員も「うちの一番の魅力は生徒」と胸を張る。「消去法ではなく、『この学校で〇〇したい』『〇〇に惹かれて選んだ』など前向きな志望理由が増えてきた」と小田原さんは手応えを感じている。 生徒は口々に「学校が好き」「小田分校の〝人〞が好き」と笑顔で語る。この学びの環境を後輩に引き継いでいくことは、生徒たちの切なる願いでもある。受容し合いながら成長「学校が好き」プロジェクト学習Ⅰ受講者は小田分校の知名度を上げるため、口コミ、ポスター、SNSを活用して学校HPの閲覧を促進した。プロジェクト学習Ⅱでは、コロナ禍で中止になった「灯篭まつり」の小規模開催に3年生2人が取り組んだ。「COLLABORATIVE SEMINAR」では、全国の大学生・大学院生とオンラインでディスカッションを行った。温かい人に囲まれた環境で、苦手を克服私は内子町外の大規模中学校出身です。体験入学で、「この学校は先生が生徒一人ひとりをよく見てくれるのでは」と感じて入学しました。知り合いがほとんどいないことが少し不安でしたが、同級生も先輩も温かく迎え入れてくれました。私は中学までは人前で話すことが得意ではなかったのですが、小田分校では、授業や行事はもちろん、学校PRで中学生や保護者の方と話す機会もあり、そのなかで少しずつ前に出て話せるようになりました。また、地域で学ぶなかで町への関心をもつようになり、高校卒業後は内子町職員として就職する予定です。農業の町なので、もっと若い人が楽しく農業に携わることができるようにしていけたらと思います。(3年生・中村花かえで楓さん /写真左)まず自分から動いてみることが大切プロジェクト学習では、コロナの影響で中止となった小田地区伝統の「灯篭まつり」を小規模開催する企画を立てました。みんなでお祭りを盛り上げて小田の明るい雰囲気を取り戻したい、と思ったからです。地域の皆さんに協力していただき、幼稚園や小学校、中学校とも交流しながら「ミニ灯篭まつり」を実現させることができました。この活動で学んだのは、「自分が動いてみないと何も始まらない。まずは動いてみることが大切なんだ」ということです。私の将来の目標は、世界の支援が必要な国々のための国際協力が広がるような活動を行うこと。高校時代の経験から学んだことを活かして取り組んでいきたいと思います。(3年生・松本栞かんな奈さん/写真右)Interview

元のページ  ../index.html#57

このブックを見る