キャリアガイダンスVol.440
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自己調整型の探究学習で生徒たちが気づいた地域に飛び出す価値取材・文/江森真矢子国際基督教大学高校(東京・私立)第30回高校3年生での2学期間の選択科目「課題探究講座」から生まれたプロジェクトが、学年や授業の枠を超え、後輩たちに引き継がれています。生徒の半数以上が世界各国からの帰国生という国際色の強い高校で、ローカルに目を向けた生徒たちはどう成長し、教員はどのように授業を創ってきたのでしょうか。高校生、卒業生、教員に語り合ってもらいました。 「心の音の鳴る方へ」。国際基督教大学高校の課題探究講座は、3年次の1、2学期をかけて自分の興味関心に向き合い、考え、調べ、対話を繰り返す選択授業。冒頭の一文は、講座が掲げる合言葉だ。 生徒たちが車座になって自らの興味を語り合い、キーワードからテーマを絞っていくのが最初の2カ月ほど。夏休みから2学期にかけてフィールドワークや文献調査を行い、11月には発表会、2学期の終わりに学びを振り返るという大枠はあるが「何らかの発表をすること以外、決まったことはありません。その時々の生徒の声を聞いて授業を創っており、目指すのは自己調整型の探究です」と鵜飼力也先生は言う。 探究とは何か、どうやって問いをつくるのかなど、必要な事はタイミングを見て授業中の「ミニレッスン」として扱う。十数人の受講生のなかには、友人と一緒に人と人が繋がる場づくりに挑戦する生徒もいれば、文化人類学の論文執筆をする生徒もおり、進め方もそれぞれ。クラスは自分の心の音に耳を澄まし、他者とゆるやかに繋がる学びの共同体であり、教師は生徒たちを注意深く見守り、声を聞きながら個と全体に働きかける役割を担っている。 そんな講座から3年前に生まれた「かけはしプロジェクト」を紹介したい。目指すのは、学校近隣の三鷹市で農家と子ども食堂、それぞれを自分たちが「助ける」のではなく、「かけ橋になる」こと。廃棄される規格外野菜などを子ども食堂に届け、子どもの居場所づくりをするプロジェクトだ。 発案者の一人、卒業生のレッドフォードさんは、2年生の終わりに学校主催のスタディツアーでエチオピアに行った経験が、このプロジェクトに繋がったと言う。レストランで食べきれない量の食事が出て、残したらどうなるのかを店の人に尋ねたところ「捨てるのではなく、スタッフに分けてそれぞれの家で食べられるということでした。以前の私は、先進国は途上国より進んでいると考えていたこともありましたが、エチオピアでのこの経験に、フードロスの多い日本が学ぶことがあると気づいたんです」。 一緒に講座に参加していた大竹さんは、「この学校にはグローバルはあるけれどローカルがない、という問題意識がありました」と言う。生徒の3分の2は海外からの帰国生で、世界的な課題について議論したり、世の中に疑問をもっていたりしても、目の前の問題解決に繋がる行動をしているのか? 教育に関心をもっていた大竹さんがレッドフォードさんと意見を交わすなかで、農家で廃棄される野菜を子ども食堂に届けるという形が徐々に見えてきた。 とはいえ、自分たちは現実を知らない。提案だけで終わるものにはしたくない、何ができるのか。教員の助言も得て、子ども食堂、近隣の農家、社会福祉協議会など7箇所に電話をし、直接訪ねて話を聞いた。わかってきたのは、子ども食堂の課題が人手と食材だということ、流通には乗らない野菜も大切に育てたものであること、運ぶための人手や保管場所の問題。課題を一つずつクリアして仕組みを整えた。 そして、収穫を手伝った野菜を学校に一時保管し、子ども食堂に届けることができるようになったころ、考え始めたのは、引き継ぎだった。11月に校内で行われた発表会で参加者を募り、興味をもってくれた後輩たちと子ども食堂の手伝いをしながら、次に運営を担うメンバーを探した。「卒業したら終わり、では農家さんにも子ども食堂に対しても無責任です。進学後も自分が続けたい、という思いもありましたが、学校に残していく方法を考えました。新しい人や考えが入ることでプロジェクトがグローバルはあってもローカルがない602021 DEC. Vol.440

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