キャリアガイダンスVol.440_別冊
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2Vol.440 別冊特集 日本における教育が、どのような「成果」をもたらしているのか。学力面はさておき、生徒たちの意識の面ではどうなのか。図1は日本財団が2019年に欧米とアジア9か国の17歳から19歳に対して行った「18歳意識調査」の国際比較である。 質問は全部で6つあり、①『自分を大人だと思う』若者の比率は、多くの国が80%前後であるのに対して、日本は29.1%しかない。 ほかの項目も同様だ。②「自分は責任がある社会の一員だと思う」でも日本は44.8%でほかの国々の半分程度、③「将来の夢を持っている」は60.1%でほかの国々の3分の2程度である。 ④「自分で国や社会を変えられると思う」に至っては18.3%で、5人に1人にも満たない。⑤「自分の国に解決したい社会課題がある」、⑥「社会課題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している」も目を覆うばかりの低さである。 さらにほかの調査でも同様の結果が出ている。2020年に公表された「ユニセフの幸福度調査」(「レポートカード16」)は、先進国の子どもたちの状況を比較したもので、身体の健康は1位であるにもかかわらず、心の幸福度は38か国中下から2番目の37位なのである。 さらに内閣府の2019年版「子ども・若者白書」の「自分自身に満足していますか」という自己肯定感の調査で、世界7か国(日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン)の調査結果において日本の「そう思う」という回答は10.4%。ほかの国の3分の1~6分の1で、「どちらかと言えばそう思う」を足した数値でも、他国の半分~6割しかいない状況なのである。  どうしてこのような、自分を幸せだと思えず自己肯定感の低い、そして社会への関心が低い子どもたちが育っているのだろうか。 「それは、日本ではサービス産業化があらゆる分野で過度に進み、『おもてなし』の国に変わってしまったからです。その結果、子どもたちはサービスを受ける側になってしまっています。教育の世界に注目すると、子どもの頃からとにかく手をかけています」と工藤先生は、その原因を指摘する。 子どもは、さまざまなことに好奇心をもち、「あれもしたい」「これもしたい」と自分で動き回るのが本分である。 しかし日本では、いつの間にかそれが否定されるようになってきている。 「『あれをしなさい』『これをしなさい』『今はこれをしてはダメ』『待っていなさい』と指示されることが非常に多くなってきて、小学校の高学年になっても『筆箱の中には鉛筆を3本入れなさい、シャープペンはダメだよ』、『手はお膝の上、今は話を聞く時間、姿勢を正しくしなさい』と言われます。そうなると子どもたちは自分で物事を考えられなくなり、自分で考えて自分で行動するという自律の力がなくなってしまうのです」(工藤先生) そして、自律の力がなくなってきた子どもは、主体性をどんどん失っていき、自己肯定感が下がっていくのだ。 「日本はわざわざ手をかけて、手をかけないと勉強しない子どもに育てる。さらに、その教え方が悪いと言われて教員たちはサービスをする。そして、当事者意識を失った子どもたちが育つ、という繰り返しです。つまり我々は自分で自分の首を絞めている。そんな教育を日本中が競争してやっている感じです」(同) 日本では、与え続ける教育によって子どもたちは主体性を失い、当事者意識を失い、幸福感も自己肯定感も失っていくのだ。 OECDのEducation2030プロジェクトは「2030年に望まれる社会のビジョン」と、「そのビジョンを実現する主体として求められる生徒像と資質能力」を発表し、その中で「変革を起こすために目取材・文/教育ジャーナリスト 友野伸一郎日本の教育は子どもたちの自己肯定感、自己効力感、そして主体性を育てることができているのだろうか。多くの国際比較調査では、残念な結果が相次いで報告されている。このような子どもたちの現状を生み出した原因は何か、そしてそれを克服するには、どのような教育が求められているのか。OECD Education2030プロジェクトで打ち出されたエージェンシーの概念の検討も含めて、それを実現する手だてを横浜創英中学・高校校長(前・千代田区立麹町中学校校長)の工藤勇一先生と一緒に考えていきたい。

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