キャリアガイダンスVol.440_別冊
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3Vol.440 別冊特集標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力」としてのエージェンシーの育成こそが重要であると提唱しているのである。図2は、OECD Education2030プロジェクトの中で、ラーニング・コンパスと呼ばれているもので、2030年のWell-being(幸福)をどのようにして教育が実現していくかを示す図である。右上にゴールとしてのWell-beingが示され、左下の生徒・学生がそこに向かって方位コンパスをもって進んで行く。そのコンパスには、「よりよい未来の創造に向けた」変革を起こす能力として「新たな価値を創造する力」「対立やジレンマに対処する力」「責任ある行動をとる力」の3つが示されている。 そして、このコンパスを導き手として、子どもたちはエージェンシーを発揮して、「見通し」をもって「行動」し、それを「振り返り」つつ、次の「見通し」を得て、さらに次の「行動」を起こすということを繰り返しながら、Well-beingに向かって進んで行くというイメージである。 ここで重要なポイントを示すと、Well-beingは個人の幸福だけでなく、社会の、そして地球のWell-beingを含むものである。 そのための変革を起こす3つの能力「新たな価値を創造する力」「対立やジレンマに対処する力」「責任ある行動をとる力」はコンパスの側にあり、子どもたちはそれらの力を外から学んで身につけていくものであるのに対して、エージェンシーは子どもたちの内側にある点だ。つまり、エージェンシーは子どもたちが人間として生まれながらにもっているもの(=資質)であり、かつ伸ばすことも学ぶこともできるもの(=能力)である。そしてエージェンシーの前提とされている原則は、子どもたちの誰もが自分の人生や周りの世界に対してポジティブな影響を与えることができる能力と意志をもっているということだ。 図の左側には、多くの人が描かれていて、「仲間、先生、保護者、コミュニティとの共同エージェンシー」と書かれているように、エージェンシーは周囲の人たちとの共同性の中で、より育まれ発揮されると考えられている。 このように、世界の教育がエージェンシーを育成する方向に進もうとしているときに、それとは正反対の日本の現状を変革することは、もはや喫緊の課題であろう。 では、どのように変革していくべきなのか。その参考となる実践例は、日本にも数多く存在している。 例えば、千代田区立麹町中学校の実践である。工藤先生が同校校長に赴任した2014年当時は、私立中学受験に失敗した生徒が約8割で、その多くが主体性を失っていて、1年生では4クラスのうち2~3クラスが学級崩壊状態だったという。 そこから出発して、全員担任制という仕組みの導入や宿題の廃止、校則の廃止等を推進して学級崩壊を克服し学校の立て直しを進めていくのだが、注目したいのは生徒が自ら学ぶというスタイルを確立した点である。例えば数学の授業では一斉授業をやめて、子どもたちが学びたいことを学びたいように学ぶように変えた。 「すごく重要なポイントは、子どもたちが自己決定をしているかどうかです。一斉教授型の授業はそもそも出だしから自己決定で子どもの国や社会に対する意識図1出所/日本財団「18歳意識調査」第20回 テーマ:「社会や国に対する意識」(9カ国調査)日本ベトナムインドネシアイギリスインド中国韓国アメリカドイツ自分を大人だと思う自分は責任がある社会の一員だと思う将来の夢を持っている自分で国や社会を変えられると思う自分の国に解決したい社会課題がある社会課題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している

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