田奈高校は2009年より、神奈川県指定のクリエイティブスクールの1校となった。入試に学力検査はなく、中学校までにもてる力を十分発揮できなかった生徒も含めて歓迎し、成長を後押しする学校だ。もともと同校は学力が伸び悩む生徒を応援してきたが、これを機に、自分の力を出し切れずにいた〝さまざまな事情〞を抱えた生徒がより集まるようになる。 例えば、家庭の経済的な困窮、不和、介護などの問題を抱え、勉強に集中できない生徒がいた。外国にルーツのある家庭で育ち、日本語での学習に苦戦してきた生徒もいた。大多数の人とは異なる認知や感覚があり、自分の特性に悩んでいる生徒もいた。事情を知らない周囲の人から、怒られたり、低評価を受けたりするなかで、自分への自信を失い、大人への不信感を強めた生徒も多かった。 クリエイティブスクール始動時、先生たちはそうした生徒一人ひとりの課題と向き合い、その過程で外部連携の必要性も感じていく。同校には「この先やりたいことはない」という生徒も多いのだが、本当にないのではなく、過去の経験から「何をやってもうまくいかない」と感じていたり、家庭の事情から進学できず望みに蓋をしていたりするのが実情で、教員の支援だけでは越えられない壁があったからだ。2010年にキャリア支援グループ(いわゆる進路指導部)内にキャリア支援センターを設置。その担当教員と管理職を中心に、各方面とつながりを築くことに奔走し、図のような支援体制を整えた。生徒の力の発揮を阻んでいる多様な壁を乗り越えるためにNPOや地域とキャリア支援で連携力を出し切れずにいた生徒の支援体制を構築、継承段階へ多様な生徒を複数のプロが支援NPO・地元企業自治体・多様な支援機関田奈高校 (神奈川・県立)取材・文/松井大助図:田奈高校・キャリア支援グループの社会との連携1978年創立/普通科/生徒数295人(男子151人・女子144人)/クリエイティブスクールとして、中学校までに力を発揮しきれなかったが学ぶ意欲のある生徒をサポート。学校データ●ぴっかりカフェ…週1回図書室で開催。在校生や卒業生の居場所+社会人との交流。●青春相談室どろっぴん…カフェで信頼関係を築いた職員と、生徒が個別相談。● バイターン…生徒が協力企業で数日間の就業体験(インターン)。本人に適性と意欲があれば、有給のアルバイトとして見守られながら社会経験を積む。NPO×有志の人・企業田奈高校キャリア支援グループ(教員とSCC合わせて10名前後)NPO×多様な支援機関● 田奈Pass…働きたいが踏み出せずにいる人を支援する専門家(※)の学校出張講座。週1回、図書室や進路室で生徒の個別相談にのる。家族や卒業生、中退生も相談可。※ 厚生労働省委託の支援機関「地域若者サポートステーション」(サポステ)の職員。相談者の悩みに応じて、保健・福祉の支援機関や、ビジネスの研修機関にもつなぐ法人会(地元企業の集まり)● 1学年の職業インタビュー・職場見学体験…各企業が講師役や見学体験先で協力。● 3学年の就職面接講座…就職希望の生徒に対する模擬面接を各企業が協力。● 卒業生の住居支援・自立支援…卒業後、自力で一人暮らしを始めなければならない生徒に対して、法人会が不要な家具を会員から集めて提供するなどして支援。自治体×公益法人● 介護プログラム…介護職員初任者研修の実施。希望者は手厚いサポートを受けながら介護資格取得を目指す。また介護施設体験やアルバイトの斡旋も行う。● 保育プログラム…在学中に横浜市の保育園で就業体験。本人に適性と意志があれば卒業後2年間アルバイト雇用(その勤務経験により保育士試験の受験資格取得)。企業や卒業生● 就労支援…SCCと教員の連携による生徒の就労相談、就職先の開拓、マッチング。● さくら咲くキャリア教室…個々の生徒を踏まえた校外職場体験・見学、卒業生・企業を講師に迎えたトークセッション、外部講師によるお金やマナーの講座などを開催。● 卒業生・中退生支援…訪ねてきた卒業生・中退生の報告や悩みを傾聴、相談支援。 田奈高校ではこのほか、学習支援グループの教員が、放課後補習「田奈ゼミ」で地域住民や大学生の学習支援ボランティアと連携。生徒支援グループの教員が、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーと共に、児童相談所や医療機関などの外部機関と連携している。キャリア支援センター(担当教員1名)キャリア担当の教員(各学年に数名)SCC(スクールキャリアカウンセラー)262022 FEB. Vol.441
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