キャリアガイダンスVol.441
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具体的には、「連絡を取り続ける」ことと「ほかの先生にも役割を配る」ことを目指した。 そもそも同校の外部連携は、「こんな困難や望みをもつ生徒がいる」という目の前のニーズに対応すべく始まった。だが、同じニーズが毎年あるとは限らない。年度によっては、外部支援に対する生徒の反応が鈍いこともある。すると外部支援者も協力に慎重になる。実際、コロナ禍の影響もあり、直近は最小限の活動にとどまった連携もあった。それでも太田先生は各担当者と連絡を取り続け、枠組の維持を確認。教 そして現在、立ち上げ期の先生は異動や退職で去り、同校は新たな段階を迎えている。キャリア支援センター3代目の担当として、外部との窓口役になった太田昌之先生は、まず思ったという。「自分に務まるのか」と。 太田先生からすれば、「仕組みを作った先生方はスーパーマンのような存在で、自分に同じことはできそうにない」という不安があったという。 一方で、これらの連携で「大人への不信感の強い生徒が、多様な大人とふれあって人間として成長する」のも感じ、「社会に送り出すうえで大事な取組だ」との思いも強めていく。だから自分にできることを考え、「すごい先生でなくても続けられる仕組みにして、次に引き継ごう」と意識するようになった。員間で生徒のニーズを察知したら、改めてじっくり相談できるだけの関係を保とうとしている。 また、外部連携の一つ、就労支援の専門家と組んだ田奈Passは、同じキャリア支援グループの山崎真歩先生に窓口をお願いした。こうした役割分担が軌道に乗り、もし各自に余裕が生まれたら、「生徒ファーストというか、今の生徒のために何かできるかをまた考え、例えばコンピュータ関係など、ニーズに合わせた新たな外部連携も検討してみたい」と太田先生は言う。 異動による教員の入れ替わりがある公立高校では、学校や地域に長く関わる専門家と協働できることの意義も大きい。NPO法人パノラマの代表、石井正宏さんは、若者支援の専門家であり、2010年から相談員として学校に入った。2014年からは他の職員やボランティアと共に、週1回、昼休みや放課後に図書館でお菓子や飲み物を無料提供する「ぴっかりカフェ」も開催。生徒と他愛もない話をしたり、一緒に楽器を演奏したりしながら、「顔の見える相談員」になることに努めてきた。 「知らない人では子どもたちが安心して相談できませんし、無理に聴き出そうとすれば尋問になります。『信頼貯金を貯める』と言っているのですが、貯金が貯まってくると、子どもたちは自分の家のことや悩みを話してくれるのです。そこから先生と情報共有をしたり、個別相談を重ねたり、別の支援者につなげたりします」 信頼貯金は別の支援者につなぐときも効果を発揮する。例えばバイターンという取組。面接が怖くてアルバイトもできずにいた生徒に対して、支援者である地元企業の就業体験を石井さんが勧めると、「石井さんが信用する人なら会ってみます」と踏み出せたという。次いでその企業で有給のアルバイトも経験し、一歩ずつ、働くことへの自信を手にしていった。 スクールキャリアカウンセラー(以下、SCC)の野坂浩美さんもキーパーソンだ。人材系企業や大学キャリアセンターでの勤務経験があり、声をかけられて2012年に同校の非常勤職員に。先生と協働でキャリア支援に取り組み、進路未決定を大幅に減らした。これを受け、2017年には県内のクリエイティブスクール全校にSCCを置く制度が確立。始まりは外部人材の活用だが、「生徒ファースト」のために社会に助けを求め丸投げせずに各方面のプロと協働社会人や学生とゲームや音楽、会話を楽しみ、文化的な体験を得ながら、気軽に相談できる人との信頼関係も築く。SCC野坂さん企画の体験活動。地元工務店の協力を得て、職場で生徒がベンチ作り。もの作りの魅力にふれた。ぴっかりカフェさくら咲くキャリア教室多様な人にふれて成長するその仕組みを維持するために信頼貯金を貯めた専門家が生徒と地域や社会をつなぐ評価しない支援のプロと共に生徒の就労意識を育む左後方から時計回りに、山崎真まさほ歩先生、山下智さとき己先生、太田昌之先生、SCCの野坂浩美さん、上田聡子先生NPO法人パノラマ代表理事/カフェマスター石井正宏さん(写真中央)272022 FEB. Vol.441社会と共に生徒を育てる社会と共に生徒を育てる高校事例

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