ぴっかりカフェには1年生の時から通っています。お菓子も出るよ、と先生に教えてもらい、最初は食べに行った感じです。そこにマスターや杏ちゃん(パノラマの石井さんと職員)、ボランティアの人がいて、一緒にボードゲームで遊んだりするうちに仲良くなりました。いろんな立場の人がいて、みんな、引き出しがすごく多いんです。自分は絵が好きで、今はグループ展などにも参加しているのですが、将来のことでは学校にいるときも、出てからも、焦って悩むことがあります。でも、このカフェでいろんな人を見て、働き方は本当にそれぞれなんだと知ってからは、少し気持ちが楽になり、前向きに考えられるようになりました。なんだろう、普通の範囲が広がるのかな。 自分の場合、体は女性だけど、心は男性というのもあって、マスターや杏ちゃんにはその相談もしていました。生徒の前に、人として見てくれるので、話しやすいんです。卒業したけれど、ぴっかりカフェにはまた来ます。今度は高校生と遊ぶ側にもなるので、話しやすい雰囲気でいたいと思っています。(椎橋 結さん) 私もぴっかりカフェには1年生から通っています。そこにいる人とゲームをしたり話したりするのが楽しかったからです。NPOの人とか、劇団の人とか、教習所の人とか、いろんな仕事の人がいたし、結(椎橋さん)の性のことでイベントを教えてくれた人もいて、一緒に行ったりもして。勉強ではないけれど、私たちが普通に生活していたら知らなかった世の中のことを教えてもらえたように思います。 先生との橋渡し役にもなってくれました。怪我で体育を長期見学し、単位が怪しくなったとき、泣いてカフェで愚痴ったら、文句は省いて「見学でも課題をやった」ことを先生に伝えてくれて、おかげで単位を取れたんです。すごく心強かった。私はこのカフェで担任の先生とも仲良くなれたし、授業を取っていない先生とも仲良くなれて、ここで勉強も教わったんですよ。みんな応援してくれて、めちゃくちゃがんばって、無理と言われていた専門学校にも行けました。ただ、その学校の勉強がきつくて今は落ち込み中。だからカフェに来て、また元気をもらっています。(田中佑依さん)自分のなかの「普通」が広がり悩みつつも前を向けるように世の中のことを教えてもらい今も元気をもらっている左から、椎しいばし橋 結ゆうさん、田中佑ゆい依さん(2020年度卒業)上は進路室を訪れた卒業生の写真と手紙。下は卒業生が講師を務めたトークセッション。卒業生が学校を訪れやすいことは、在校生のためにもなると言える。くってくれるのです。今の3年生の就労意識は、教員だけでは育めなかったと思います」 進路希望を3年生の秋まで白紙にしていた生徒が、野坂さんには「この仕事に興味ある」と打ち明けたこともあった。一緒に会社見学に行き、選考を受けるも不採用。しかし「自分から動けた」ことが自信になったようで、心折れることなく就職活動を続け、ついには内定を勝ち取り、その成長で先生たちを驚かせた。 もっとも、キャリア支援全体では先生たちは忸怩たる思いも抱え続けている。太田先生は「成長した生徒の姿を見ると感慨深いですが、途中で辞めた生徒の顔も浮かびます」と、全員の力になれない現実を口にする。山崎先生今では同校に欠かせない教職員の一人となっている。連携する上田聡子先生は、その頼もしさを次のように語る。 「教員は生徒から『評価する側』と見られ、特に本校では時間をかけて関係をつくらないと、深い話がなかなかできません。そのなかで、教員とは立場が違い、就職事情にも詳しい野坂先生が、早いうちから生徒に対して、働くことについて考える場や、相談できる機会をつは、卒業後や退学後の生活を気にしつつ「自分のキャパでは、次に受けもつ生徒たちがくると、どうしてもそちらに頭が切り替わります」と、目が届かない範囲に言及する。 だから山崎先生は、先々の不安が残る生徒については、連携先の一つで学校を出た後も相談ができる田奈Passに意識的につなぐようになった。 また、野坂さんのいる進路室や、「ぴっかりカフェ」も、今では卒業生や中退生の居場所としても機能している。元生徒の来訪を歓迎する野坂さんの下には、社会に出て味わった嬉しいニュースから、命の危険が迫る悩みの相談まで舞い込むという。 「在学中からいろいろな困難があったことを知っているだけに、学校を出てからも、何かあったときにそばで話を聴いてくれる『誰か』がいてほしいのです。進路室がその一つになれたら、とは思います」(野坂さん) 同じように元生徒とも交流するパノラマの石井さんは、そもそも同校との連携で一番共感したのは「生徒ファーストの姿勢だった」と振り返る。 「生徒のために何ができるかを一番に考え、自分たちではできないことがあれば、社会に助けを求める。それを教員の力不足の露呈と捉えて嫌がる先生もいると思うのですが、『生徒のためになるなら自分が恥をかけばいい』と踏み出したわけで、その姿が僕はかっこいいと思うのです」 もちろん、助けを求めるというのは、丸投げすることではない。就労支援で「野坂先生におんぶに抱っこです」と信頼を寄せる山下智己先生は、それゆえに自戒を込めてこのようにも語る。 「投げっぱなしにせず、話し合いに同席したりと、『一緒にやる』という意識をもつようにしています」「生徒の力になりきれない」その現実とどう向き合うか卒業後も続く関係卒業生の声282022 FEB. Vol.441
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