キャリアガイダンスVol.441
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どもたちは何のために学校に通い、学ぶのでしょうか。それは、自分をつくるためです。言い換えると、「子どもたち一人ひとりが自分をつくる」という“目的”のために学校があり、学校での学びは自分をつくるための“手段”なのです。しかし、多くの学校ではそうなってはいません。手段が目的化し、これをやっておけば将来役に立つとか、こういう力が必要だから身につけろとか言われて、一律の内容を学ぶことが目的になっていないでしょうか。自分を高めるために自分に必要なものを学び取るんだという当事者意識がないままに学んでいても、自分をつくることはできません。与えられたものをただ吸収し、自分がつくれないまま多様な共生社会に出て、想定外なことが起こったときにどうなるか。会社が悪い、世の中が悪いと周囲のせいにして、社会の一員として自分に何ができるだろうかという考えに至りません。他者にも不寛容になります。「自分をつくる」とは、多様な共生社会のなかで自分らしく生きていく術を身につけると同時に、自分とは違う他者のことも尊重できるようになることなのです。 子どもたち一人ひとりが自分をつくることができる学校にするには、まずは「学校づくりの主役は子どもだ」という前提に立つこと。子ども自身が「自分が学ぶ学校は、自分がつくる」という当事者意識をもつのはもちろん、教職員も保護者も地域の人も、みんなが「学校はみんなのもの。自分たちがつくるんだ」という気持ちで関わることが大事です。学校は地域・社会の一員ですし、地域・社会の宝が学ぶ場所です。そして、社会が想定外・多様・共生であるならば学校もそうあるべきですから、いろんな人が関わらないほうが不自然です。大空小学校では、「できる人が無理なく楽しく」をモットーに、地域の人や保護者がそれぞれ時間のあるときに学校に来て、ボランティアでサポーターをしていました。ギブ・アンド・テイクの関係は持続しません。持続可能なみんなの学校をつくるためには、みんなが自分の意思で主体的に学校に関わり、その姿を見て子どもが社会を知り、学んで成長するというウィン・ウィンの関係が不可欠ではないでしょうか。 高校の先生方は、肩の力を抜いて、もっと自由になってもいいと思います。自由とは、自分らしく生きるということ。生徒に何かを教えなきゃいけないという思い込みは捨てましょう。生徒と一緒に自分も走ったらいいんです。それぞれの生徒が「自分をつくるためには何が必要か」という問いをもち、必要なものを自ら学び取れるよう、伴走する先生が増えることを期待しています。自分をつくる木村泰子大阪市立大空小学校初代校長きむら・やすこ●大阪府生まれ。2006年に開校した大阪市立大空小学校の初代校長を9年間務める。同校では「すべての子どもの学習権を保障する」という理念の下、教職員や地域住民と共に、障害の有無にかかわらずすべての子どもが一緒に学び合っている。2015年には同校の1年間を追ったドキュメンタリー映画『みんなの学校』が公開され、大きな反響を呼んだ。現在は講演活動やセミナーで全国の人たちと学び合っている。『学校の未来はここから始まる 学校を変える、本気の教育論議』(教育開発研究所)今号のオープニングメッセージ取材・文/笹原風花 撮影/景山幸一自分をつくるための学校は、自分がつくる。みんなでつくる。当事者意識が、社会で生きる力を育む。子ののとののメメ演32022 FEB. Vol.441

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