キャリアガイダンスVol.441
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312022 FEB. Vol.441誌上 進路指導ケーススタディ 生徒の悩みに しっかり寄り添うために令和2年の高校生の自殺者は339名で、前年の279名から大きく増えてしまいました(文部科学省『コロナ禍における児童生徒の自殺等に関する現状について』より)。進路相談のなかでも、将来を悲観して希死念慮(※)を口にする生徒もいるのではないでしょうか。そんなとき、改めて重要になるのが徹底的に「寄り添う」姿勢。そのような姿勢を実現していくコミュニケーションの技法として「マイクロカウンセリング」を紹介します。取材・文/清水由佳 イラスト/おおさわゆうこんなケース1「死にたい」とこぼした1年生2受験をしないと言い出した3年生3就職先を辞めたいと相談に来た卒業生第22回かりまざわ・はやと●1986年岩手大学工学部卒業後、岩手県の公立高校教諭に。早稲田大学大学院教育学研究科後期博士課程単位修得退学。教育学、教育カウンセリング心理学を専門とする。2015年4月より現職。会津大学 文化研究センター教授 苅間澤勇人先生 【監修&アドバイス】を学ぶ必要があると説きます。日本マイクロカウンセリング学会会長の福原眞知子氏は、その著書『マイクロカウンセリング技法』の中で、「今日、カウンセリングや心理療法には様々なアプローチが存在し、それぞれ技法の用いられ方や頻度に違いがありますが、マイクロ技法を学ぶことにより、それらの特徴を再認識することができ、いくつかのアプローチを適宜意図的に使いこなしながら、個々の問題に対応することができるようになります」と述べています。進路相談でも、マイクロ技法の段階を意識することにより、より個々の生徒に寄り添った対応が実現できると考えられます。 「マイクロカウンセリング」は、アメリカの教育学博士、アレン・E・アイビイ氏によって開発されたコミュニケーション技法の枠組みとトレーニング方法です。アイビイ博士は、コミュニケーションの形を段階ごとに組み立て、「マイクロ技法の階層表」(図)として相談に応じる際の技術を細かく分けて示し、それぞれ 「マイクロ技法の階層表」を見てもわかるように、土台となるのは、「かかわり行動」です。視線や表情、態度、声の調子などの基本的なかかわり方は、面談全体を貫く土台となります。その上で、実際のやりとりの技法として、YES・NOで回答できる「閉ざされた質問」と自由に回答できる「開かれた質問」の使い分けや、〝今ここ〞を大切にし、クライエントの応答や態度・表情などに注目する「クライエント観察技法」、発言を受け止める「はげまし、いいかえ、要約」や、言語化されていない感情に向き合う「感情の反映」などによる「基本的傾聴の連鎖」があります。これらは「傾聴」に欠かせない技法であり、「基本的かかわり技法」とも呼ばれています。この上に、「5段階の面接構造」などが位置づけられ「基本的傾聴の連鎖」を意図的に行っていくだけでも、面接の5段階が構成できると説きます。特に、生徒の悩みにしっかり寄り添う必要がある場面では、結論や解決を急ぐのではなく、この傾聴の連鎖の行き来が非常に重要になると言えるでしょう。図 マイクロ技法の階層表進路指導に役立つ技法●マイクロカウンセリング理論を活かす※希死念慮:死にたいと願うことだが、特に具体的な理由や方法がなく漠然と言っていることを指す。マイクロ技法の階層表(1995)『マイクロカウンセリング技法』福原眞知子監修(風間書房)p.2より引用個人的スタイルと理論をきめる技法の統合意味の反映感情の反映はげまし、いいかえ、要約クライエント観察技法開かれた質問、閉ざされた質問積極技法(指示、論理的帰結、解釈、自己開示、助言、情報提供、説明、教示、フィードバック、カウンセラー発言の要約)焦点のあてかた(文化に・環境に・脈絡に)(クライエントに、問題に、他の人に、私たちに、面接者に)対決(矛盾、不一致)かかわり行動(文化的に適合した視線の位置、言語追跡、身体言語、声の質)5段階の面接構造面接を傾聴の技法連鎖のみで完結する共感的理解の視点でそれを評価する- 異なった理論では異なったパタンの技法の使用法になる- 異なった状況下では異なったパタンの技法の使用法を要求される- 異なった文化的なグループは異なったパタンの技法の使用法をもっている面接の5段階1. ラポート2. 問題の定義化3. 目標を設定4. 選択肢を探求し 不一致と対決する5. 日常生活への般化基本的傾聴の連鎖

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