322022 FEB. Vol.441ケース1ケース2ケース3「基本的傾聴の連鎖」を大切に、チームで連携した対応をしていく 「教室で一人でいる」「ぼんやりしている」など、生徒の異変は「クライエント観察技法」を使う重要な場面です。面談中に生徒がどんな表情で、どのように発言しているのかなどのメッセージを丁寧に受け取りましょう。特に、「死にたい」などの希死念慮が発せられている場合は、安易な励ましは逆効果です。まずは、しっかり気持ちに寄り添い、「ちゃんと聞いているよ」「一緒に考えていこう」という姿勢を示すこと。その一方で、一人で対応するのではなく、必ずスクールカウンセラーや養護の先生、学年主任などとチームを立ち上げ、必要に応じて精神科医などともつなぎながら対応することが不可欠です。自分の意思で決定するプロセスを一緒に歩んでいけるかかわりを「基本的傾聴の連鎖」をベースに「自己開示」などの積極技法で寄り添う せっかく受験料も払って願書を出しても、「やっぱりやめたい」と言い出す生徒もいます。教師からすれば、「まずは受けてみてから考えればいいじゃないか」と、つい説得しがちです。しかし、生徒が自分自身で納得した形で決意をしない限り、問題の解決には至りません。ここは、「基本的傾聴の連鎖」を大事にしながら、意思決定のプロセスを一緒に歩む必要があります。本当にその大学が嫌なのか、失敗が怖くなっているのかなど、理由が異なるはずです。「いいかえ」や「要約」などを使いながら、何が課題で、どのようなことを解決していく必要がありそうなのかを、一緒に考えてみましょう。 誰に相談すればいいのかわからず、頼って来てくれる生徒がいます。それだけ「誰かに相談したい」という思いを抱いていることを理解し、気持ちを受け止めてあげましょう。安易に励ましたり、「よくあること」で一般化するのではなく、「基本的傾聴の連鎖」を使ってじっくり話を聞いてあげます。また、卒業生だからこそ、先生自身の新米教師時代の苦労などの自己開示をしてもいいのではないでしょうか。きちんと受け止めてもらえている実感を得ると、自分の話を客観視できるようになり、自分でも反省すべき点に気づけたり、先生からのアドバイスにも素直に耳を傾けてもらえるようになります。(教室で一人でいることが増え、授業中もぼんやりしていることが多くなった男子生徒。今週3度目の遅刻をしたこともあり呼び出した)先生: 最近、元気がないようだけど、何かあったのかな。生徒: …。何か、毎日がどうでもよくなって。先生: 元気出せ。高校生活まだまだこれからじゃないか。生徒: どうせがんばっても、自分なんて何もうまくいかないし。将来、どうせ大した大人にもなれそうもないし。先生: これからいくらでも成長していけるんだぞ。生徒: …。もう死にたい。先生: そんなこと言うなよ。生徒: 大学入学共通テスト、失敗しちゃったじゃない。一応、志望校変更して願書出したけど、やっぱり受験するのやめようかと思って。先生: 浪人したいっていうこと?生徒: うん。もし合格しても、あんまり行きたい大学じゃないし。先生: でも、評判は結構いい大学だよ。生徒: でも、もう1年やって共通テスト、リベンジしたいかな。先生: だけど、せっかくもう受験料も払っているんだし。とりあえず受けてみたら。生徒: 親もそう言うんですよね…。先生: でしょ? 浪人も大変だよ。合格してから考えるのでも遅くないよ。卒業生: 仕事を辞めたいと思って…。 先生: まだ1年も経っていないのに、何かあったのか。卒業生: 職場の人とあんまりうまくいっていなくて…。転職したいかなって。 先生: せめて3年くらいは同じ会社でがんばっていないと、なかなか転職も厳しいんだけどね。卒業生: 仕事も、毎日同じようなことの繰り返しで、あんまり面白くないし。だからよくミスして、先輩から嫌味ばっかり言われているんだよね。 先生: なんだ、キミらしくないな。高校の時は、部活で大変なことがあっても簡単に諦めたりしないでがんばっていたじゃないか。「死にたい」とこぼした1年生受験をしないと言い出した3年生就職先を辞めたいと相談に来た卒業生
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