キャリアガイダンスVol.441
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ュースになっていましたが、「まだ見ぬたくさんのテテ」に2000万人が殺到しているわけです。源氏物語から少女漫画まで、シェイクスピアからポップスまで、ギャップは常に最強の物語装置です。 ファン心理やラブストーリーに限らずとも、物事を大きく変化させ動かしていくのは、つねに落差やズレ、矛盾や葛藤です。場面に応じて「よくできてる自分」「よくやれている私」だけが、私でなくていいのです。覚束なさや心許なさ、不甲斐なさ割り切れなさを抱えて、何かを思う自分自身にこそ、「ギャップ萌え」してほしい。そのためにはまず、「整合性のとれた一種類の私」という幻想から脱すること、そして「たくさんの私」を自由にしてやることです。 子どもは「問い」の天才です。「これなに?」「なんで?」と周囲を質問攻めにし、時に核心をついた問いで大人たちをしどろもどろさせた時期が誰にもあったことでしょう。まだ世界と自分が一緒くただった幼いころ、イメージの中では「私」は何にでもなれました。その頃の「たくさんの私」を取り戻すことができれば、ふたたび世界は「問いだらけ」になるはず。 ここで言う「たくさんの私」は、言わずもがなSNSの「裏垢/サブ垢」で便宜上使い分ける「たくさんのアカウント情報」とは違います。意図して演じ分ける複数のキャラクターばかりでなく、自分でもつかまえきれていない、何にでもなれる「まだ見ぬたくさんの私」が潜む領域があるのです。それこそが問いを育むゆらぎの土壌です。子どもに戻ることはできずとも、言葉の力でその領域に分け入っていける、ちょっとした遊びをご紹介しましょう。 次のふたつのステップで、「たくさんの私」を取り出して新しいニックネームを複数考えます。意外な自分、矛盾した私が現れてくるほど、上出来です。 探究心を駆り立てる力強い問いも、もとは小さな違和感やほのかな好奇心から芽吹いてくるものです。そうした微かなゆらぎは常に私たちの内側で起こっているのですが、学校や職場や家庭で何らかの役割に徹するうちに、社会的文脈の膜に覆われて見えなくなってしまう。整合性のとれた一貫した自己として社会を生きる中で、自分の内側にある複雑さや意外性が隠されてしまうのです。 本来、意外性やギャップこそが人々を動かすバネにもなります。いまや世界を席巻するアイドルグループBTSは、「ギャップ萌え」が押し上げたスターです。端正なヴィジュアルやパフォーマンスもさることながら、舞台裏のおよそスターらしくない表情を効果的に配信していくプロデュース・スタイルが、世界中のファンを熱狂させました。BTSメンバーのインスタグラムの異例なフォロワー獲得スピードがニ自分に「ギャップ萌え」してほしい「たくさんの私」を遊ぼう探究活動からイノベーションまで、世代や領域に関わらず今問われる「問う力」。「答え方」ではなく「問い方」を鍛錬するにはどうすればいいのか、「『問い』の編集工学」の前提と全体像について、前回の連載第0回にてお話しいただきました。第1回は、問いの土壌となる「たくさんの私」について考えていきます。編集工学研究所 安藤昭子522022 FEB. Vol.441

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