キャリアガイダンスVol.441
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 まずは、「私」を多面的に見ることから始めますが、最初の5〜10個はたいていは社会的な属性が出てきます。「私は真面目な生徒である」「私は付き合いのいい友達である」など。「娘/息子」「兄/姉/妹/弟」「高校生」「部員」「iPhoneユーザー」……。これだけでも、自分がたくさんの顔を持っていることに気がつきますが、大事なのはここから。こうした表層的な属性情報を使いきった後は、自分を何かにたとえて表現する「見立て」や「メタファー」を持ち出さざるをえなくなります。こうなると、だんだん〝私っぽさ〞が現れてきます。「私は遅れっぱなしの腕時計である」「私はなんでも入る筆箱である」など。自分を表現できそうなものを探して、そこにピタッと来る修飾語をつけてみます。もう一歩進めて、ありえない組み合わせの表現を取り入れると、更に面白くなります。「私は水が嫌いな魚である」「私は喋り疲れた宝石である」などなど。言葉になりにくい、けれどどこかに潜んでいる「たくさんの私」が顔を出し始めます。 編集工学研究所が運営する情報編集力のためのオンライン・スクール「イシス編集学校」(校長:松岡正剛)では、この「たくさんの私」に早いタイミングで取り組みます。情報を編集するにあたっては、「私」を「たくさんの私」にしておくことが、何をおいても大切なのです。 書き出した「たくさんの私」のセンテンスの中から、「キーワード」と思える言葉にマルをつけます。「キーワード」は、ピンとくる、好き、目に留まる、気になる、どんな基準でもいいです。マルをつけた「キーワード」を取り出して、その周りに連想される言葉「ホットワード」を書き出します(いくつでも)。こうして出来ていく「私」にまつわる「意味のシソーラス※」、つまりは「キーワード」と「ホットワード」の組み合わせから、「たくさんの私」の一部を表現するような新しい言葉「ニューワード」をつくります。 この「キー・ホット・ニュー」の展開は、編集工学研究所がコピーワークをする際などによく使う方法なのですが、これを自分自身を素材にやってみます。曰く言い難い〝私らしさ〞をつかまえるのに、効果的な方法です。このいくつかのニューワードを「俳号」や「ペンネーム」のようにして、授業や活動の中で使いわけてみる場面をつくるのもいいでしょう。新しく引き出されたペンネーム(ニューワード)同士は、必ずしも整合性のとれた情報ではないはずなので、自分の奥に隠れている思わぬ「ギャップ」にも自ずと出会えることでしょう。 この柔らかな「たくさんの私」状態で、それぞれの「問い」のタネを出し合ってみるといいと思います。はっきりと疑問に思うことばかりでなく、微かにでも違和感があること、思わず気になってしまうこと、どうにも惹かれることなど。自分や仲間と作り出したペンネームを切り替えながら、白い紙に自由に書き出していきます。「何年何組氏名」として考えることとは違った景色が広がることでしょう。その中に、やがて自分を突き動かす問いの連鎖への兆しが潜んでいるかもしれません。 次のルールで「たくさんの私」を書き出します。「私は◯◯◯な×××である」という構文を、最低20個、できれば30個。「×××」は名詞、「◯◯◯」はそれを修飾する言葉。いずれも、同じものを2回使ってはいけません。1「たくさんの私」を取り出す2「キーワード・ホットワード・ニューワード」で〝らしさ〞をつかまえる「柔らかい私」から問いのタネを引き出す安藤昭子あんどう・あきこ● 編集工学研究所・専務取締役。出版社で書籍編集や事業開発に従事した後、2010年に編集工学研究所に入社。企業の人材開発や理念・ヴィジョン設計、教育プログラム開発や大学図書館改編など、多領域にわたる課題解決や価値創造の方法を「編集工学」を用いて開発・支援している。2020年には「編集工学」に基づく読書メソッド「探究型読書」を開発し、企業や学校に展開中。著書に、『才能をひらく編集工学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング)など。(次ページにワークシートがあります)(次ページにワークシートがあります)※意味の類似によって言葉を分類・配列したもの532022 FEB. Vol.441

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