HINT&TIPS1「失敗する実験」を敢えて取り入れ探究心やチャレンジ精神を育む条件の欠けた実験を行うこともある。雲は「水蒸気」を含む空気が「露点」に達するとできると学び、ペットボトルで実験すると、できない。雲粒の映像を見せ、生徒が「凝結核」を発見し、条件を足して実験すると成功する。失敗とは「条件が足りないこと」と実感させ、諦めずに挑戦する姿勢を育むねらいもある。2「板書がない授業」や「ペア音読予習」で講義時間を短縮、実験や対話の時間をつくる授業のなかで実験や対話を行う時間をどう確保するか。永井先生は板書をやめ、事前準備したスライドを使い、簡潔な説明を心掛け、講義時間を短縮。また、授業の最初に生徒同士で教科書をペア音読する時間を設けた(いわば授業内予習で、生徒の頭に先にキーワードが入ると、簡潔な説明でも円滑に進む)。3「使える地学」にするために、年間の学習の流れを工夫、ニュースも活用年間の学習は、生活との結びつきが強い気象、地震や火山の分野から先に学ぶ組み立てに。そのうえで他の単元に進んでからも、天気の変化や自然災害があれば、授業冒頭で、気象庁のデータやニュースを過去の学習を踏まえて紹介。知識を使って情報を読み解けば、生活に役立つことを生徒に実感させている。4授業づくりでは賞や助成制度も活用して自分の考えをまとめ、磨きをかけていくモデル実験やオリジナル教材を開発する際、永井先生は科研費をはじめとする助成制度や各賞に積極的に応募している。落選したとしても、応募段階で自分の考えを整理することができ、審査・評価されることで改善もしていけるからだ。採択されれば、やりたいことをよりお金をかけて実現できるようにもなる。 永井先生は、高校生のときから地学を得意科目としていたが、実は教師になってから、己の力不足を痛感したという。 「岩石の名前や特徴は暗記していても、実物の岩石を見ると何岩かわからない。気象現象も言葉では理解しているのに、うまくイメージできない。私の知識は『テストで点数を取るための知識』であり、自然現象とリンクしておらず、『実生活で使える知識』になっていなかったのです」 だから「使える知識」に鍛え直そうとした。ちょうどこのころ、気象予報士制度ができる。気象情報を「適切に利用できる人」に与えられる国家資格だ。この資格試験に独学で挑み、合格し、「少しは自信をもてるようになった」という。 2000年代に入ると、校内で最新の天気図などを確認できる「リアルタイム気象情報表示システム」も開発(写真①参照)。学習内容を活かせば生徒が自分で天候を予測できるようにし、「知識って使えるんだ」という実感を後押しした。 とはいえ、まだ悩ましい問題があった。地学現象は時空のスケールが広大で、「教室の実験・実習に向かない」「現象を授業で見せるのは困難」と言われていたのだ。言葉だけで学んだら、生徒はかつての自分のように、知識はあっても自然現象に結びつけられずに終わるのではないか。 この壁を乗り越えようと、初期は自然科学の番組を活用した。パソコンのシミュレーション教材も開発、地震や惑星の動きを画面上で再現してみせた。 大きな転機となったのは、2003年12月に「キッチン地球科学」という新聞記事を目にしたことだ。 「湯葉を使ってプレート運動を再現するなど、身近な素材を使って地球のことを考える記事でした。時間や空間のスケールを変えれば、机の上でも地学現象を再現できたわけです。『これだ!』と思い、自分なりのモデル実験を作っていきました」 2011年3月、もう一つの転機が訪れる。東日本大震災。津波の映像を目の当たりにし、「もし、あの場所に教え子がいたら、自分がいたら、その身を守ることができただろうか」と自問自答した。 「今まで目指してきた『楽しい地学』だけではだめだ、『命を守る地学』にもしなければ、と強く思ったのです」 沖縄気象台と組み、津波避難のワークショップ授業も開発した(写真②参照)。授業ができるまで点数を取るための知識から日々の生活で使いこなす知識へ【写真①】1代目から何代も重ねて永井先生が進化させてきた現在の「リアルタイム気象情報表示システム」(通称、コザ天)。大画面モニターに各種気象情報が収まる。【写真②】津波避難ワークショップの授業マニュアル。授業では、地震・津波情報が数分ごとに次々に伝えられるなか、幼児や高齢者と共に生徒が行動する前提で、命を守るためにどう動くかを状況を踏まえて判断する。沖縄気象台のホームページで閲覧できる。■ 同僚の先生INTERVIEW 永井先生には教材研究の質問などを時折しています。私は生物担当で、科目は違いますが、永井先生の授業を見学すると、生徒の興味を引き出す仕掛けや、学習内容と日常との結びつきに気づかせる仕掛けなど、ハッとする仕掛けが必ずあるんですよ。そうした仕掛けづくりを見習いたいのです。「使える知識にしたい」という思いにも共感します。本校の生徒には、しゃべるのは得意でも、書いて説明するのは苦手、という生徒が多いと感じています。生物の授業では、単元ごとの振り返りに、学んだことを基に生徒が50文字で問いに答え、それを私が添削して返すことをしています。知識を使って論理的に表現する力をつけてほしいからです。 もう一つ、永井先生を見習いたいのが、助成制度への応募などで自ら研究費を取得し、授業実践を外にも広めていることです。創意工夫を周囲にも広く還元されているというか。私も地元の民間の助成制度に応募し、採用していただけたことで、やりたかった授業を実現できました。生物花原 努先生見習いたいのは仕掛けづくりと周囲に還元していくその姿勢582022 FEB. Vol.441
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