2Vol.441 別冊特集 ビジネスの世界で「キャリア自律」が叫ばれるようになって久しい。かつては、企業に就職すれば、キャリアアップの道筋は会社が主導権をもって用意してくれていたが、年功序列や終身雇用を前提としたそのシステムはもはや崩壊しつつある。これからの時代は、転職や独立などの選択肢も含め、働く人それぞれが、変化する社会のなかで主体的に自分のキャリアを考え、創り出していくことが求められる。 このようなキャリア自律を前提とした人材育成、人事評価の仕組みは、企業社会において確実に広がってきている。ただ組織に依存し、与えられたキャリアを受動的に受け入れるだけの人材は、組織内においてもいずれ居場所を失ってしまう──そのような時代が訪れようとしている。 働く人にとっては、このように常に主体的選択を求められることはプレッシャーであるかもしれない。しかし、見方を変えれば、この流れは、「向いてない仕事に嫌々取り組む」というネガティブな働き方の解消にもつながっていくものだ。一人ひとりが自分の仕事やキャリアに対する満足感を高めることにつながるなら、歓迎すべき変化と言えるだろう。 このキャリア自律を考える際に、キーワードになるのが「情報」と「行動」だ。組織に依存せず、自分自身のキャリアを構想するには、そのために必要な情報を自ら取りにいくことが不可欠。また、じっと待っているだけでは、キャリア自律につながる学びや経験の機会が得られないので、主体的に行動することもポイントになると考えられる。 では、今、「情報」と「行動」は若手社会人のキャリアに具体的にどのような影響を及ぼしているのだろうか。リクルートワークス研究所では、このテーマに関して「若手社会人のキャリア形成に関する実証調査」(2020年2月)と題した調査研究を実施した。同研究所研究員の古屋星斗氏は、この調査研究に取り組んだ背景を次のように語る。 「本調査の前に、いわゆるZ世代(1990年代中盤から2000年代中盤までに生まれた世代)の若手社会人、なかでもキャリアに対する満足感が高い人を対象にまとまった数のインタビューを行ったのですが、そこで大きく二つの発見がありました。一つは、SNSなどで同世代のキラキラしたキャリアを見過ぎているため、どこかに理想のキャリアを実現する“魔法の杖”があるかのように錯覚している、地に足の付いていないキャリア観を抱いている若手が目立ったこと。もう一つは、働く動機を語る際に、自分の体験や身近な出来事がきっかけとなったという若手が多かったことです。情報化社会だからこそ、このような“自分だけの体験”が彼ら彼女らにとってむしろ重要な意味をもつようになっている。この二つの点に着目し、あふれかえる情報と“自分だけの体験”につながる行動が、どのような相関関係をもって若手のキャリア形成に影響を与えているのかを定量的に調査してみようということになったのです」取材・文/伊藤敬太郎先行き不透明なVUCAと言われる時代を迎え、若手社会人のキャリア形成においてもさまざまな課題が生じている。インターネットやSNSにあふれかえる情報に惑わされ、自分を見失ってしまう若手も決して少なくない。そんななかで、地に足をつけて、将来にわたり満足度の高いキャリアを歩むために必要なこととは何か?リクルートワークス研究所が実施した「若手社会人のキャリア形成に関する実証調査」に基づき、「行動」をキーワードにして若手社会人のキャリア形成について考察する。若手社会人の“4つのグループ”の特徴(「情報」の量×「行動」の量)「情報」の量(職業生活設計に関する情報量)多少多少「行動」の量 (職業生活における行動の頻度)図1出所/ 図1~3、5:リクルートワークス研究所「若手社会人のキャリア形成に関する実証調査」(2020年2月)
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