キャリアガイダンスVol.442
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(株)HAA 代表取締役いけだ・かのこ●1988年大分県生まれ。青山学院大学卒業後、映画会社、広告代理店を経て2018年、一般社団法人別府市産業連携・協働プラットフォームB-biz LINKに転職。別府と東京との二拠点生活を始める。築80年の元湯治宿をコワーキングスペースにリノベーションするなど、鉄輪温泉でプランナーとして活動。2021年(株)HAAを設立。「日常生活に、深呼吸を届ける」をミッションに、湯治をコンセプトにした入浴剤などのブランドを展開。「夫婦は一緒に暮らすもの」そんな固定観念を脱し二拠点生活継続中府で育った私ですが、温泉文化になじむこともなく上京し、映画会社を経て広告代理店に勤めました。多忙だけどやりがいはそれ以上。憧れの業界で働く喜びもあり、理想のキャリアと思う一方、働き方や価値観は多様であることも感じてました。というのも変わり者だらけのシェアハウスに住んだことで、「世の中9時17時で働く人ばかりではない」ことを知ったからです。 警察官を辞めて建築家になった男性もいました。彼からは「いつでも勉強し直せること」を学びました。お金には無頓着でしたが、好きなことに突き進む姿が魅力的で、多分根本は一緒。だから夫婦になったんです。性格は真逆だけど、互いを理解し尊重する。平行線だけど進む方向は一緒。そんな面倒な夫婦ですから新居も、コミュニティづくりをコンセプトに掲げた少し変わった集合住宅を選びました。広場に面した1階は、自宅兼店舗にする決まりがあり、本業の傍ら小さな雑貨店を始めました。 そこで私に気持ちの変化が生じます。仕入れのため別府に通ううち、昔は気づかなかった故郷の魅力を知り、盛り上げるお手伝いをしたくなったんです。夫に相談したところ、「じゃあ、向こうで働いてみては。暮らさないと本当の良さはわからないよ」という返事。てっきり二人で移住するのかと思っていたら、移り気な私の性格を知ってか、向こうにも拠点をつくり、行き来しながら一人でがんばれとのこと。「夫婦は一緒に暮らすもの」と思い込んでいた私は驚いた半面、「めっちゃラクだぞ」とも感じました(笑)。リズムの違う二人には適度な距離が必要なんです。 こうして、東京と別府を往復する(現在は2週間ずつ)二拠点生活が始まりました。新たな挑戦に不安もありましたが、なんとかなると思えたのは、20代を通して好きな仕事に打ち込んだ経験値や培ったスキルに自信があったから。当初は、湯治場再生と空き宿問題を解決すべく奔走しましたが、苦労は予想以上で、地元の人々と時間をかけて信頼を築いていきました。私のような働き方は憧れだけでは難しく、覚悟かスキルか目的意識の一つくらいは必要なのかもしれません。 最初は理解されなかった二拠点生活ですが、コロナ禍で在宅勤務が普及することで納得されることが増えました。東京に根を張る夫も地域に溶け込み、隣人の子の保育園の送り迎えを手伝うなど近所付き合いを楽しんでいます。「夫婦だけが家族じゃない」。私たちに合った暮らし方だと思っています。つらかったとき夫から「3年やれば見えるものがある」と励まされ、本当に3年目、一生をかけたいと思える会社を設立することができました。その第一弾として、別府の魅力が詰まった入浴剤を販売しています。多くの経験を積み重ねた今、自分たちが本当に心地良いと思える働き方を手にしています。別■池田さんのあゆみ青山学院大学卒業後、映画会社に就職。6年間勤めたのち大手広告代理店に転職。22歳結婚。会社勤務の傍ら、集合住宅で自宅を兼ねた小規模な雑貨店を夫婦で開業。29歳別府市産業連携・協働プラットフォームB-biz LINKに転職し、二拠点生活開始。30歳(株)HAA設立。社名の由来は湯船に浸かったとき自然と出る「は~」から。33歳別府にある湯治場、鉄かんなわ輪温泉を見下ろす高台にて。この湯けむりの風景が大好き(池田さん提供)。メインの写真は、東京の拠点となる自宅兼店舗にて、建築家である夫の石井 航わたるさんと。152022 APR. Vol.442いま、「働く」をどう考えるか「働く」に自分らしさを重ねた6人の選択

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