キャリアガイダンスVol.442
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歳までは映画を2本しか観たことがなかったんです。小学2年生のときに『グーニーズ』を観て夢中になり、もう一度観たいと親に頼んだのですが、観に行ったのは別の映画で…。当時の僕は幻滅してしまい、それ以来、映画を毛嫌いするようになりました。再び映画を観るようになったのは、『クール・ランニング』がきっかけです。誘われてしぶしぶ観に行ったんですが、大爆笑からの最後は号泣で、そこから映画の魅力に取り憑かれてしまいました。 僕はずっとサッカーをやっていて、ちょうど映画にハマりだしたころ、プロを目指してサッカーの専門学校に進学しました。練習や授業の合間に映画を観たり映画関連の本を読んだりしていましたが、その道に進もうとはまったく考えていませんでした。その後、プロテストを受けたものの、契約には至らず。指導者という道にも心が動きませんでした。サッカーひと筋だったので、ほかに何もない。どうしようかなと思ったときに、あ、映画の近くにいたい…と思ったんです。そこで、レンタルビデオ店でアルバイトを始めました。 長く続けてきたサッカーをすっぱりやめて映画の世界に踏み出したわけですが、迷いは一切ありませんでした。幼いころから母に「好きなことを見つけてとことんやりなさい」と言われて育ったのが大きいと思います。映画という好きなことを見つけたんだから、こっちに進むしかないなと。自分が一番楽しいと思えることを選択するっていうのは、僕にとってはとても大事な価値観なんです。自分が決めたことであれば、後悔もしませんから。 バイト生活は5年ほど続いたのですが、とにかく映画の陳列棚づくりが楽しくて。映画好きが集まる活気ある職場でした。そのうちに自分が好きな映画を上映する自主上映会をしたいと思うようになり、そう口にしていたら、映画館を所有する友人から「うちでやりなよ」と誘われて。それが移動映画館「キノ・イグルー」としての初めての上映会です。次第にカフェやギャラリーの方からも相談を受けるようになりました。すべての上映会がオーダーメイド、オファーがあればどこへでも…というのは、当時も今も変わりません。毎回、まっさらな気持ちでまっさらな状態からつくるようにしています。培ってきた経験は確かに大事なものだけど、そこに胡座をかきたくはなくて。縁あって出会った方々と、映画に詳しい人・詳しくない人、経験がある人・ない人という関係性にはなりたくないんです。 どんな仕事も、楽しいと心が動く瞬間がないと、続けるのは難しいと思います。なぜなら、〝働く〞は〝生きる〞の一部だから。いろんな情報や多様な価値観があふれる今の時代だからこそ、自分はどうなのか、どう生きたいのかと、自分に矢印を向けることがとても大事なんじゃないかと思います。19ありさか・るい●2003年に移動映画館「キノ・イグルー」を渡辺順也氏と共にスタート。東京を中心に全国各地のカフェ、雑貨店、書店、ベーカリー、美術館、公園などさまざまな空間で映画上映イベントを開催。その場所がもつ空気感を大事にした、唯一無二のシネマ体験を提供している。映画カウンセリング「あなたのために映画をえらびます」、インスタグラムで日々発信する「ねおきシネマ」など、既存の枠にとらわれず自由な発想で映画の楽しさを伝えている。長年続けたサッカーへの未練は皆無。自分が一番楽しいと思えることを移動映画館「キノ・イグルー」一卵性双生児の兄と共にサッカー三昧の日々を送る。小中高プロサッカー選手を目指して専門学校に進学。19歳プロテストを受けるも契約に至らず、レンタルビデオ店でアルバイトを開始。21歳移動映画館「キノ・イグルー」をスタート。個人事業主として活動する。28歳■有坂さんのあゆみ182022 APR. Vol.442

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