キャリアガイダンスVol.442
23/66

と松川さん。今回は感染症対策のため使用しなかったが、発言者の指名に使う毛糸のボール(コミュニティ・ボール)も置かれた。こうして対話の前には、自分の経験で語れるテーマの設定や、自由に思考できる雰囲気の演出など狙いに沿った下準備を行う。そして自分らしく働くのがいいこと、という前提にならないよう「自分らしく働く『って必要?』」の問いで、3時間の対話を行うことにした。 当日は、岡山県立和気閑谷高校から高校2年生の生徒5人、そして年齢も立場も異なる大人5人が集まった。緊張気味の参加者たちは、飲み物を片手に着席。机の上には紙と色とりどりのペンが置かれ、対話中に呼ばれたい名前を書く。これも「無機質な〝会議感〞を出さないための演出」ら考えることができる。慌てて答えを出すのではなく、モヤモヤする気持ちを大切にしてください」(松川さん)。今回の場は合意形成することが目的ではないと伝え、参加者が安心して考えられる空間をつくりあげていった。 説明を終えると、まず大人たちだけの対話を始めた。松川さんが投げかけたのは自己紹介ではなく「働いていて『自分らしい』と思う瞬間はあるか」。大人たちは自分の職業やキャリアを明かしながら、仕事の中での「自分らしさ」について、率直な考えや葛藤を語り出した。「自分がどう思うかを大事に。対話のプロセスを楽しんで」「予想外の展開を恐れないで。それは自分が知らないことを知れるチャンス」。冒頭20分弱かけて、松川さんが参加者全員に向けて、哲学対話とは何か、対話にどのように参加してほしいかを説明した。「発言するかしないかは自由です。パスしてもいい。ここでは誰もが対等で、もし話についていけなかったら『今ちょっと話に乗れていないです』と言ってみるのもあり。すると『なぜ話に乗れていないか?』と新しい角度か安心して思考できる空間に「働く大人」が対話冒頭20分で哲学対話の説明↓対話30分時間配分の例(3時間の場合)テーマ※参加者のお名前は、ワークショップ中の呼び名です。消防士 もりしさん現在は消防総務課にて勤務新卒1年目の看護師あやねさん和気閑谷高校卒業生ほんとうは自由な仕事がしたかったです。ふらっと海外に行くとか(笑)。私が就いた消防士という仕事は、真逆で…。人と話すことが好きです。だけど集中治療室に配属になり、思い描いていた「会話のある職場」ではなかった。今は、「自分」が出せなくて窮屈に感じることもあるけど、この職場でもう少しがんばりたい。規律を重んじる雰囲気で、集団行動が求められた。ところが、それが性に合う気がしたんです。働き始めてから「これが自分らしい」と知ったのかな。232022 APR. Vol.442いま、「働く」をどう考えるか多角的に「働くこと」を思考する。大人と高校生の哲学対話

元のページ  ../index.html#23

このブックを見る