冒頭は、あえて「自己紹介してください」から始めず、対話のテーマに対する考えとその人自身、どちらもが垣間見えるような問いを投げかけてみました。第一声や冒頭の展開を、事細かに決めておく必要はありません。既に決まっていることを淡々と遂行するように見えてしまうと、対話も予定調和に陥りがちです。 途中、「時代」や「社会」を主語にした話が続いたときには「あなたの経験を基に話してほしい」と伝えました。時代や社会の変化は一般論で語られがちですが、それが全員の共通認識というわけではありません。その人がどのような経験からそう感じたのか話してもらうほうが、年代の異なる人も理解しやすく、一緒に考えやすくなります。 複数の人の発言のなかで交わりそうなポイントが見えたら「これと、さっきの話は関連しますかね?」などと指摘してもいいかもしれません。私はこのポイントを「思考や関心の交差点」と呼んでいます。異なる経験のなかで交わりそうだと感じた点に、スポットライトを当てるイメージです。そこを入り口に、思考が深まる場合もあります。参加者に考えたい様子がなければ、別の話題に移っていきます(松川)。 最初は「自分らしく働きたいから自営業を選んだ」と話す理容師の方のお話に、会社や組織に所属する他の参加者たちが「羨ましい」と反応した。しかし、徐々に「自分の個性を活かしてくれる組織もある」「集団の一部として働くことを自分らしいと感じる」「個人経営でも完全に自分次第ではない」などさまざまな観点から、生々しい経験談が飛び出した。進行役は参加者の一人として意見を言いつつ、たびたび「例えばどういうことですか?」などと問いかける。 途中、話が時代や世代の傾向に及びそうになった。すると、松川さんが「せっかくなので、具体的なあなたの経験を聞きたい」と言葉を挟み、対話の流れを変える。働くことに関する多種多様な論点が出てきて、話はあちこちへと展開した。この間、生徒たちは大人と同じ輪の中で、対話の様子をじっと観察している。複数の問いが交差するしたいことを仕事にするだけじゃなくて、向いているか、向いていないかも大事なのかな。自分らしさって何なのか、よくわからなくなってきた…。僕なら窮屈さを感じながら働き続けるのはつらい、って考えると思う。その人の「らしさ」を尊重してくれる職場っていいな。指示をしてもらったほうが動きやすいか、任されたほうがいいか、人それぞれ違うと思うから。ファシリテーションのポイント主語を「社会」にせず個人個人の経験を聞く教育系の事業に携わるあいさんご自身も子育て中小学校教諭 ぞうさん現在は教育委員会に在籍理容師 アナログさん和気閑谷高校卒業生挑戦を求められる社風で、その人の「らしさ」を生かした活躍ができます。そういう会社だって知って入ったわけじゃないけど自分の「~したい」を生かしながら働けるって、幸せだったんですね。自由に働きたいから自営業を選んだ。では組織と無縁かというとそうでもないんだな。組合に所属しているとか…。組織に属して、自分の自由や働きやすさを守っている一面もある。教師という職業はひとつだと思っていました。でも実際は、先生が一人入れ替わるだけでも、職員室の雰囲気は変わるんです。242022 APR. Vol.442
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