対話を終えた生徒たちの感想は「楽しかった!」。講演やセミナーなどで仕事の話を聞く場合は受け身になってしまいがちだが、今回の哲学対話はそれとは違って参加できる空間だったと話す。「何を言ってもいい、って感じがあった」「高校生の中にもあまり話したことのない子がいて緊張したけど、真剣に考えている子がいると私も考えたくなった」「大人が私の話に耳を傾けてくれて驚いた」という意見も。印象に残ったこととして、職場での悩みを率直に吐露した大人の発言を挙げた人が多く、仕事観が変わった生徒もいたようだ。等身大で考えられるテーマを自分で見出し、思考を楽しんでいた様子がうかがえた。 今日の対話を通じて、自分らしさとは、自分から発するのではなく、自然とあらわれるものじゃないかと思いました。だから自分ではわからなくて、他人から見てこそ、わかるものかもしれません。消防士のもりしさんの「集団の中で自分を生かす」という話は、僕にとって新しい発見でした。僕は地域の人との関わりのなかで、自分を生かしてみたいです。働くうちに自分らしさが自然にあらわれるものだと思う。 看護師のあやねさんの「今は窮屈でも、もう少しがんばりたい」って話に驚きました。職場が思い通りではなくてもがんばろうとする姿勢がすごいなあって。私が保育士を諦めた話をしたら大人の方がいろんな考えを話してくれて戸惑いました。まだ考え中だけど「自分自身を発揮することが求められる」場所で働きたいと思います。働くって、たぶん自分自身の力を発揮することだと思う。 何が心地いいか、どんな状態だと自分の能力を発揮できるかは、人それぞれだと思いました。「自分らしさを出す」と「協調する」は両立するんじゃないでしょうか。むしろ自分らしさを生かすことが、いい仕事につながるような気がします。私も自分の特性が生きる場所で働きたいです。もともと人がもつ自分らしさがあるから、いい仕事ができるんだと思う。 考えはまとまっていません。看護師のあやねさんの話を聞いたとき「本当に自分のしたいことをすればいいのに」と思ったけど、消防士のもりしさんは「したくなかったことをしているうちに、これが自分らしさかも、と思った」と言っていて、いろんな見方があるんだなって。一つの考えに縛られず、どんな場所でも「自分はどうしたいか」を考えて、選んでいきたいです。働くって、まだよくわからない。でも死ぬとき「自分らしかった」と思えるように生きたい。 教師のぞうさんの「目の前の児童だけではなく、学年全体のことを考える」という話は驚きでした。自分を出すのを我慢するより、みんなのために自分らしさを使うほうがいいと思いました。私は、たくさんの人に「私らしさ」を生かす方法を考えたいです。でも「働くなかで自分らしさがわかる」って話もあって、いろんな観点で働くことを考えられました。働くって、…少なくとも私は、自分らしさを生かしたいと思う。働くって、たぶん だと思う。対話を通じて高校生が考えた哲学対話には、生徒が参加できる“余白”があった 今回の対話の企画を学校現場で行う場合は、まず全体で大人の話を聞いてから、生徒が5人程度に分かれて円になり、対話するのもいいでしょう。そのとき大事なのは「質問したいこと」ではなく「高校生自身が考えたいこと」をテーマとして設定することです。課題文のようなものを読んで生徒一人ひとりが問いを考え、一番考えたい問いを選ぶ方法もあります。先生が進行役を務める場合は、「ここからは先生という立場ではなく、一人の大人として参加します」などと話して、いつもとは違う関係であることを伝えてください。進行のコツは「何を言ってもいい場である」と本気で腹を括ること。また、話があちこちに行ったり、沈黙が長くなったりして焦った場合は「私、焦っています。誰か助けて」とオープンにするのも手です。哲学の由来は「知を愛する」というギリシャ語。まだもっていない「知」、自分の知らないものの見方と出合うことを先生方もぜひ楽しんでみてください(松川)。学校現場で哲学対話を行うときのポイント【ファシリテーションのコツ】その1生徒自身が考えたい問いをテーマにその2「何を言ってもいい場」と腹を括るその3進行役の戸惑いや焦りもオープンにようすけさんみなさんゆうしさんありここさんせいかさん272022 APR. Vol.442いま、「働く」をどう考えるか多角的に「働くこと」を思考する。大人と高校生の哲学対話
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