特別支援学校流山高等学園は、2020年に文部科学省の研究開発校の指定を受け、目下「特別支援教育における、変化する社会で生き抜くための資質・能力とエージェンシーを育成する教育課程及び指導方法の研究開発」に取り組んでいる学校だ。 もともと同校は、以前から就業実績に定評があった。開校以来の平均就職率は9割以上。職業に関する専門学科が4つあり、専門教科の授業では、仕事を想定した実習を日々行っている。1年次から企業等の現場実習も体験。3年次には本人の希望や特性を踏まえて「就職を見据えた実習先」につなぎ、現場実習を繰り返す。そのうえで、最終的には生徒と実習先の互いの意思を確認し、就職を決める。こうした丁寧な指導で、就労へのスムーズな移行を支援してきたのだ。 ところが、2017年に卒業生の就労3年目の状況を調査すると、見過ごせない問題が浮上する。「離職者が約2割、離職まではいかないものの、就労に困難を抱えている人が約2割いました。キャリアアップの前向きな離職は一部。卒業生の4割近くが、就労面で課題を抱えていたのです」(研究主任・古江陽子先生) その課題とはいったい何なのか。学校でどんな教育をすれば、生徒がその壁を乗り越えられるのか。古江先生たちは課題を分析し、これからの教育のあり方を模索したという。 離職や離職危機の要因を分析していくと、意外なことが見えてきた。 同校では生徒の現場実習時に、実習評価表を用いて「挨拶」「報告・連絡」「作業の正確性・スピード」「協調性」などを評価している。職場の作業で求められる力であり、就職時にも重視される力。しかし離職者の大半は、実はその作業能力とは違う要因でつまずいていたのだ。具体的には「親子関係」「友達・異性関係」「雇用条件」「健康面」「感情のコントロール」などで、その問題が結果的に就労意欲の低下に関係していた。 この分析を基に、同校研究部は新たな調査を行う。企業・卒業生・在校生・教員にアンケートを実施し、働くうえで大切だと思うことを、実習評価表にない項目も加えて質問した。そしてその結果も踏まえ、全職員で、学校で育成する資質・能力を5つの分野に整理した(図1参照)。 今までの方針との最大の違いは、「作業」に必要な力と、「社会生活」に必要な力をあえて別にし、その両方を育成するとしたことだ(なお、一つ目の「作業能力」は、報告・相談、反省・改善など作業上のコミュニケーションや自己実現の力も含んでおり、総合的な働く力と言える)。「働いていくには、就労に関する力に加え、人と関わる力や、自分自身を見つめる力も必要だ、という認識になったのです」(古江先生) まとめて表せば、「身体的・精神的・社会的にも充実したより良い未来(Well-being)に向かうための力」の育成が、同校の目標になった。 では、その資質・能力の5つの分野を、どのような指導で育むのか。「これまでの指導は、教員のほうが『あなたにはこういう力が必要だからこう高い就業実績を誇る学校にまだ足りないものは何か離職の要因を分析するなかでより良い未来に向かう力に注目資質・能力のルーブリックを作成生徒用にさらにカード化働くうえで必要な力を、仲間と共に自ら獲得し変化を起こしながらより良い未来を切り拓く人に特別支援学校流山高等学園(千葉・県立)取材・文/松井大助挨拶、報告・相談、反省・改善、協力・協同作業など21項目日常生活の挨拶、反省・お礼など読み書き、数量を扱う力など受け入れる力、将来を考える力など自己理解、感情のコントロールなどより良い未来に向かうための資質・能力左から、研究主任の古江陽子先生、生活技術科主任の豊岡優子先生、領域「私の時間」主任の磯村友希子先生作業能力 はたらくコミュニケーション力 かかわる生活力 くらす自己実現力 きめる自己調整力 ととのえる作業社会生活計20項目312022 APR. Vol.442いま、「働く」をどう考えるか「自分にとっての働く」を考える高校事例
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