キャリアガイダンスVol.442
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しよう』と促し、生徒がそれに従う部分があったように思います。ですが、変化が激しい社会を豊かに生きるには、生徒がより主体的に将来を見つめ、どのような力をつけるかも自分で選択・決定していくことが大切ではないか、と感じていました」(古江先生) そこで着目したのがエージェンシーという概念だ。「変化を起こすために目標を設定し、振り返りながら責任ある行動をとる能力」のことを言う。このエージェンシーを生徒が発揮すれば、教員主導でなく、生徒が自分でより良い未来に向かえるのではないか。古江先生たちは、授業実践と検証を重ねて、生徒が「見通し」「実践」「振り返り」の活動を回していく学習プロセスを整えた(図2参照)。 並行して、ツールの開発にも注力する。何のためのツールか。資質・能力のことを生徒が理解し、「私はこの力をこのレベルまで高めたい」と自分で方向づけできるようにするためのものだ。2018年から2年間かけて、次の3つのツールを順次完成させた。①自立へのステージアップ表 資質・能力の5分野について、41の小項目を設定。各項目の目指す到達点を4段階で示した表を作成した(いわゆるルーブリック、欄外参照)。②ステカ(ステージアップカード) ルーブリックの内容を、平易な言葉とイラストで表し、トレーディングカードふうの教材にした。ハガキ大のサイズで、合計164枚。生徒はこのカードを並べながら、「挨拶」「継続力」「健康管理」などの資質・能力の小項目について、今の自分はどの段階で、いつまでにどの段階まで高めたいかを考えられるようになった。③ステカ・パソコン版 パソコンの画面上でも、カードを選んで自己評価できるようにした。また、その自己評価と、教員による他者評価を比べながら、全体を俯瞰できるようにもした(図3参照)。 2021年からは、すべての教育活動を関連づけて、カリキュラム全体で資質・能力を伸ばすことにも取り組んでいる。領域「私の時間」という年間35時間程度の枠を創設。この時間を軸に、生徒がステカを使い、今の自分、なりたい自分、その未来に向かうための作戦を考案し、思い描いたことを学校生活全般で実践するようにしたのだ(図4参照)。 領域「私の時間」主任の磯村友希子先生は、この一連の活動で、「仲間と相談し、一緒に考える」ことを重視してきたという。自己評価のときも、未来に向かう作戦を立てるときも、一人で考える時間とは別に、生徒同士の対話の時間を必ず入れた。「一緒に考えると、自分とは違う意見があることに生徒が気づきます。他人の意見を取り入れるとできることが広がることや、相手に意見して力になれると嬉しいことも味わいます。いろいろな意見から『最終的には自分で選ぶ』という自己決定も行います。自分だけで考えず、人との関わりのなかで課題を解決できるようになってほしいのです」(磯村先生) ある話し好きの生徒は、人に話を聞いてもらえないとイラッとする自分に課題を感じていた。だからステカにあった「ストレスマネジメント」を高めようと、苛立ったら一人になって気持ちを静める作戦を実行した。でも仲間と考えるうちに、別の作戦も見つかったという。話を聞いてもらえないのは自分の接し方にも問題があったと気づき、ステカにあった「返事」の力に着目、人に注意されたときに返事をする作戦も加えた。働くことや生活することへの向き合い方が、一人でがんばるものから、みんなで課題を乗り越えるものに変化したのを感じさせる出来事だった。 生徒たちは専門教科の授業でもステカを活用している。例えば生活技術科の生徒は、糸を織り、できた布地を裁断・縫製して布製品を作り、文化祭で販売することに取り組むのだが、その際に自分が高めたい力を、単元ごとにステカを使って選ぶのだ。「作業の正確性」「継続力」などがあり、なりたいより良い未来に向かって働きかけるための活動サイクルステカ(ステージアップカード)の活用「見通し」では、今の自分を分析し、目指したい未来の自分もイメージ。「実践」では、なりたい自分に向かう作戦(課題解決)を実行。「振り返り」では、自己評価や他者評価を基に、理想に近づけたか、作戦は良かったかを検証。この一連の活動を、仲間や教員と相談しながら進める。ステカ・パソコン版。画面上で「報告・相談」など各項目について今はどの段階か4枚のカードから選択。全項目を選ぶと、自己評価・他者評価をマトリックス表で俯瞰できる。表の見方がわからなくても、下の画像の提示で、生徒が「強み」「課題」「強みかも」「課題かも」をつかめるようにしている。他者と関わり、協力し合う場評価自己分析自己理解課題設定課題解決実践実践振り返り見通し「私の時間」を創設、仲間と一緒に今の自分、なりたい自分を考える自分の弱みの克服を楽しんだりその弱みを受け入れたりする※流山高等学園のルーブリックやステカ(ステージアップカード)一覧は、以下よりダウンロードできます。 ダウンロードサイト:リクルート進学総研>> 刊行物>> キャリアガイダンス(Vol.442)322022 APR. Vol.442

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