家庭科は従前から、保育や福祉、生活設計などキャリアプランに関わる単元が含まれる教科だ。男子校である桐朋高校では2年生が履修し、生徒たちの視野を広げ、将来の自分の家族、暮らし、仕事、生活と社会のあり方などをつなげ、生活のリアリティを感じ取りながら「生きる」ことを考えるカリキュラムを組んでいる。その一つが、系列校の桐朋女子高校との意見交流会だ。 この取組が始まったのは20年前の2001年度。桐朋高校と桐朋女子高校の当時の家庭科教員同士の交流の中から、両校の生徒に人生観についてのアンケート調査を行うことになった。例えば、「仕事を選ぼうとするときに重視すること」「結婚相手を決めるときに自分にとって大切な条件」「日常生活のなかで性別の違いにかかわることで不公平と感じること」「結婚後の夫婦の働き方」「共働きでの家事分担」など、職業観、結婚観、男女の性差についてのジェンダー観、結婚後のライフスタイルについての展望などを尋ねるものだ。 開始当初は女性の社会進出が進み、女子生徒たちが社会人としてのキャリアを積みながら家庭ももつ人生を構築したいと考えている一方で、男子校の生徒にはその考えに対する理解がまだ得られにくい時代だった。男女で意見の違いがあるなら、実際に面と向かってお互いの疑問を意見交換してはどうかと始まったのが、両校での交流会だ。 男女の違いだけでなく、社会に出れば自分とは異なる多様な意見や見方に遭遇することになる。そのときに、例えばパートナーと意見が合わないと思い悩むこともあるだろう。女子生徒たちは、同校の生徒たちが将来共に働いたり、パートナーとして生きていく可能性がある同世代人だ。彼女たちの社会参画や家庭に対する意識や本音を高校生のうちに知り意見交換することが、将来に想像される困難へのシミュレーションになると考えているのだ。 カリキュラムの流れは、2年生の1学期にライフイベントを体系的に学び、生活設計、いわば「未来の年表」を作成する授業を受けた後、両校でそれぞれアンケートを実施。集計したアンケートデータに基づき、相手校に質問してみたいことについてクラスごとに議論し、3テーマほどに絞りこむ。そのうえで、11月の初旬に各校から20名ずつ、計40名の生徒が集まって交流会を実施。各校から4名ずつの8名1グループでディスカッションを行う。「校内での議論でも交流会でも、結婚観の集計結果について生徒たちは大いに盛り上がります」(中山めぐみ先生) 例えば、結婚後のライフスタイルについて同校の生徒の回答は、「生涯共働き」が昔より増えているものの、男女ともに「(妻が)子どもが生まれたら専業主婦となるが、子育てが一段落したら復職する」が現在でも最多回答だ(図1)。「事前授業で女性の就業率がM字カーブする日本の特徴や、一度退職すると復職が大変な話はしていますが、生徒たちには就職や結婚後のイメージや、どうキャリアアップしていくかという視点をもつことはまだ難しいようです」(中山先生)男子校の家庭科の授業で女子校とのディスカッション取材・文/長島佳子桐朋高校と桐朋女子高校のアンケート比較(昨年度・一部抜粋)自分とは異質な他者の考えに触れる家庭科の授業が、多様な〝生き方・働き方〞への扉を開く桐朋高校(東京・私立)夫は仕事、妻は家庭という考えは男女とも大半が「そう思わない」と回答しているが、女子の方が否定がより多い。結婚後のライフスタイルは、男女とも「(妻が)主婦で子育て後に復職」が最多で女子の方がその傾向が高かった。●夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである●結婚後のライフスタイル男子部女子部男子部生涯共働き子どもが生まれたら専業主婦主夫で子育て後、復職主婦で子育て後、復職子どもが生まれたら専業主夫すぐに専業主夫すぐに専業主婦そう思うどちらかといえばそう思うどちらかといえばそう思わないそう思わない女子部議論が白熱したときにデータが自分のものになっていく342022 APR. Vol.442
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