キャリアガイダンスVol.442
35/66

いる大事な瞬間だ。会話が盛り上がるのはデータが示す数字を自分ごととして捉えている表れでもあるため、生徒たちに議論を任せるようにしている。「取組後の日常の会話に、その後のライフイベントの話が出てきたときの方が本音が出ますし、それを友達同士で共有できることの方が大事だと思っています。そのときが一番自分のものになっているからです」(中山先生) 交流会後の振り返りとして、昨年度は代表者による学年全体への報告会を開催した。自分たちでディスカッションの議題や内容を発表し、意見交換からの気づきを仲間に伝えている様子から、交流会に参加したことへの意義を また交流会では、実際に対面し、ディスカッションを通してわかること、気づくことがあると学んでいく。例えば過去には、女子が結婚相手に求める条件の上位である「収入のよさ」について、男子生徒は「女子は収入が高い相手に養われたい」と理解していた。しかし、女子生徒たちから、自分に収入がある前提で「お互いが近い収入=収入がよい」で、収入が近ければ価値観も近くなるという思いを説明され、男子生徒たちは驚いていた。 教員自身の人生観が影響しかねないテーマのため、アンケート実施時も、校内および交流会での議論時も、なるべく介入を少なくしているという。特に生徒たちの議論が活発になるアンケート集計のデータを見せたときは、自分の視点でデータを読み取ろうとして見出していることが見てとれた。 報告会後に生徒全員が書いた感想の一部が左の「生徒たちの声」だ。交流会によって生徒たち自身の意見に必ずしも変化が起きているわけではない。「女子生徒の意見に驚いたり、新たな発見があることに意味があると思っています。近年は、ニュートラルな意見をもつ生徒が多く、性差よりも個人によって意見が多様化しているように感じます。ただそれが本音なのか、時代の流れに忖度した考えなのかはわかりません」(中山先生) 人生観というセンシティブなテーマでの議論自体も、自分とは異なる生育家族の姿があることに気づき、「そういう考え方で生きてもいいんだ」と生徒たちの世界が広がる一端になっている。 今後は過去のアンケート回答の分析をしてみたいと考えている。その変遷を生徒と共に俯瞰してみることで、現在を生きる生徒たちが、自分を取り巻く環境に対して気づきを得るのではないかと期待しているからだ。「家庭科における学びはすぐに、またダイレクトに生徒の力になることばかりではありません。しかし、生徒たちは高校を卒業した後に、さまざまな岐路に立ち困難に向き合っていかねばなりません。他者と向き合い、意見を交わし、生き方について考えた体験が、人生のがんばりどころで勇気を出せる一助になることを願っています」(中山先生)1941年創立/普通科/生徒数955名(男子校)、 「自主」「敬愛」「勤労」を教育目標とし、国公立大学・最難関大学・医学部進学者も毎年多数輩出 。進路指導では 「自分は何をしたいのか」を考え、自分を活かす場としての進学先を選択するよう導いている 。学校データ未知の人生観、家族観に触れ多様な生き方を発見する家庭科での体験が、人生の岐路で勇気を出せる一助に家庭科中山めぐみ先生●バリバリ仕事をしてキャリアを築きたい人もいれば、家庭を大切にしたい人もいて、考え方は人それぞれなので、お互い話し合って向き合うことが大切ではないかと思いました。●「女性は男性におごってほしいとは思っていない」と聞いて、本当にそう思っているのかと疑問に思い、実際に会って話してみないとわからないこともあると感じた。今後生きていくうえで、相手の考えをしっかりと聞くべきだと思った。数年後には社会人になり、社会を支えていくうえで、夫婦別姓問題など、すべての人がより良く生活できるように取り組んでいきたい。●女性が男性に求める条件はさまざまであることがわかった。今後はさまざまな場面で女性と協力しなければならないことが増えるので、お互いに尊重し合える関係がつくれるようにしたい。また、結婚できたらパートナーとの協力はより大事になると思うので、協力して楽しい家庭を築きたい。<桐朋女子高校の交流会参加者感想>●私は参加者を無意識に男女で区別して認識していたことに気づくことができました。自分の先入観に気づくことができたのは大きな利益になりました。●お互いが思うことについて、なぜそう思うのかの経緯を探っていくことで誤解が解け、新しい発見がありました。生徒たちの声昨年度の交流会。「初対面での意見交換でも、お互いの意見を受け入れる柔軟さは大人以上にあり、感心します」(中山先生)昨年度から始まった、交流会後の報告会。なかにはアンケート項目以外の話題で議論されたことを報告する生徒も。352022 APR. Vol.442いま、「働く」をどう考えるか「自分にとっての働く」を考える高校事例

元のページ  ../index.html#35

このブックを見る