キャリアガイダンスVol.442
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数学を教える先生は、「この勉強が何の役に立つの?」といった疑問をどこかでぶつけられたことがあるのではないでしょうか。その答えを懸命に探るなかで、「数学を好きになってもらう」ことが一番重要だと思うようになった先生の実践をご紹介します。に触れても、「単発の取組に終わり、既に気力のない生徒にはそこまで響かなかった」という。ならばどうするか。 「10年以上かかって気づいたんです。数学の教員としての僕の仕事は、苦手意識のある生徒を含めて『数学が好きになる』ように働きかけることだと。今の社会では、受験が終われば数学もおしまいになる人が少なくありません。でも本来は、その先が大事であったはず。大学生や社会人になっても、情報の読み取りや分析、表現や創作などのために、数学を活用してほしい。そのためには、数学を楽しいと思えて好きになることが根本だと思ったのです。好きという感覚があれば、仕事や研究、アートや遊びの活動でも、ふとしたときに『数学でこんなことやったな、生かせないかな』と、体の中に残っていたものがその先につながることが期待できます。ですから、今はとにかく生徒が数学を好きになるにはどうしたらいいかを考えています」 生徒が数学を好きになるように、村上先生が重視していることがいくつかある。 一つは、授業中のコミュニケーションを大事にしていくことだ。 「早めに教室に行って準備をしながら生 「なぜ数学を勉強するのか」という疑問をもち、そこに価値を見出せずにいる生徒に対して、教員は何ができるのだろう。甲南高校・中学校の村上仙瑞先生は、長らくそのテーマと格闘してきた。 試行錯誤の一つとしてやってみたのが「数学は役に立つ」と感じさせることだ。 例えば計算力。数学の基礎・基本であり、スポーツのランニングと同じで、繰り返すほど鍛えられ、すると大学生や社会人になっても日常で生かせること。 数学的表現の有用性。天気のニュースでは今日の気温を前日比較できるよう、15(+3)℃と表すことがある。「赤字230億円から黒字300億円へ」という記事を読んだとき、文章を式にできれば「300-(-230)↓300+230=530億円増」とすぐわかる。3分前から3分後までの変化をグラフにしたいとき、「-3…0…3」と負の数を使えば、一直線上に表せる。つまりは「表現については国語だけじゃなく、数学でも学んでいるんだよ」ということ。 世の中の仕組みの理解に役立つ数学。黄金比をはじめ美しい形には法則があること、数量データの分析によって社会の変化やトレンドまで見えてくること。 しかし、授業で折に触れ数学の有用性数学を好きになり大学や社会でも使ってほしい生徒に対する想い生徒を見取って授業をデザイン甲南高校・中学校(兵庫・私立)イメージ湧いた?と生徒に訊いています大学院を卒業後、甲南高校・中学校の教員に。数学について考えてきたことや、授業の実践、自作教材などをホームページでも発信。同サイト内のGeoGebraのコンテンツで、令和3年度「学習デジタル教材コンクール」において「日本教育新聞社賞」を受賞。弓道部の顧問も務める。数学村上仙瑞先生今号の先生イメージしながら学ぶことを繰り返し、地力をつけていく授業の実践取材・文/松井大助撮影/山内城司562022 APR. Vol.442

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