キャリアガイダンスVol.442_別冊
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2Vol.442 別冊特集 今、「ウェルビーイング(Well-Being)」という概念が世界的に注目されている。日本ではまだ一般的な認知度は低いが、これからの社会を語る際にはキーワードとなっている。直訳すると「幸福」「健康」「福祉」といった意味になるが、WHO(世界保健機関)は、この言葉を「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」と定義している。 では、なぜ今、世界的にウェルビーイングへの関心が高まっているのだろうか。大きな動きとしては欧米の企業社会の変化が挙げられる。日本でも同様だが、近年は、世界的に従業員のメンタルヘルスの問題がクローズアップされることが多い。身体的な健康だけであれば従来通りの健康診断などで管理することも可能だが、メンタルヘルスを良好に保つためには、職場環境や働き方などに関する改善も必要だ。 ミレニアル世代(1987年~1996年生まれ※)、Z世代(1996年~2015年生まれ※)などの若い世代を中心に、働き手が職場にウェルビーイングを求める傾向が強くなるなかで、企業側もこれに対応して、職場改革や働き方改革、各種ウェルビーイングサービスの導入などが急速に進むことになった。さらに2020年から現在まで続いているコロナ禍やそれに伴うリモートワークの拡大は、多くの働き手に心身の不調や不安感をもたらし、健康と幸福を求めるマインドを後押ししている。 日本では、ウェルビーイングの浸透はまだこれからという部分は大きいものの、従業員の心身の健康を重視した「健康経営」はすでに幅広く普及しており、働き方改革も急ピッチで進みつつある。今後はこの流れが「ウェルビーイング経営」へとつながっていくことが期待されている。 また、国連のSDGs(持続可能な開発目標)においても、目標の一つに「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」が掲げられている。ウェルビーイングは持続可能な社会づくりにおいても基本となる概念だ。 なお、「ウェルビーイング」のほかに「ウエルネス」という言葉が使われることも多い。ほぼ同義だが、ウェルビーイングが、心身ともに健康で、社会的にも幸福を感じられる「状態」を指しているのに対して、ウエルネスは、その状態を目指す「プロセス」を指すと定義されることもある。 ウェルビーイングはさまざまな要素を含むため、社会全体でその実現を目指すための取り組みも多様だ。例えば、企業における働き方改革の推進やヘルスケアのためのテクノロジーの進化などもその一環だが、社会全体のウェルビーイングを考えたときに、今後期待されるのがスポーツの領域からのアプローチだ。スポーツは心身の健康増進に直接貢献することはもちろん、スポーツを楽しむことを通して人々が交流し、社会的な幸福を実現するツールにもなり得る。そのポテンシャルをどう活かしていくかは、今や社会的にも大きなテーマとなっている。 そういった社会の方向性を象徴するのが、東京2020オリンピック後にJOCが発表した「JOC Vision 2064」(図1)だ。JOC広報部係長の冨吉貴浩氏は、東京2020大会を見た子どもたちが社会を動かす中心となる時代であり、また永続性を示す意味から東京1964大会から100年後の2064年という数字を入れたこのビジョンについてこう説明する。 「これまでJOCは、選手強化や、オリンピックムーブメントの推進などを中心に活動してきました。しかし、スポーツの可能性はそれだけにとどまりません。JOC Vision 2064は、より良い社会をつくることにスポーツがどのように貢献できるかという新たな観点から、JOCのありたい姿を示したものです。そこで重視したこ取材・文/伊藤敬太郎世界的にウェルビーイングへの関心が急速に高まるなか、スポーツが人々の心身の健康や社会的幸福の実現のために果たす役割が大きく注目されている。公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)においても、社会環境の急激な変化を背景に「JOC Vision 2064」を発表。スポーツやアスリートと社会との関わりについてJOCが将来的にありたい姿を示した。そんな新たな時代を見据え、スポーツに関する学びはどのように変化しているのだろう。※各世代の年齢区分については諸説がある

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