キャリアガイダンスVol.442_別冊
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4Vol.442 別冊特集 そのような人材は、必ずしも競技経験者である必要はない。むしろ、人材ニーズが拡大していくなかで、競技経験者以外の人たちがスポーツや、スポーツを通したウェルビーイングについての専門性を身につけることが求められるようになるはずだ。 現状では、まだまだ競技経験者以外の人たちがスポーツを軸に専門性を磨くことに対してピンと来ない人も多いかもしれない。しかし、スポーツは、学問として捉えたとき、非常に多様な角度からのアプローチが可能な総合的な領域だ。 核となるのは人間の身体や健康に関する科学だが、選手のメンタルコントロールの研究という面で心理学も関係している。また、選手の動きや試合のデータを分析するにはデータサイエンスなどIT系の専門性が、ビジネスとしてスポーツを捉える場合には経済学的な視点が必要になる。さらにスポーツやスポーツイベントが社会に対して与える影響は社会学的な手法で分析もされており、チームスポーツにおけるチームビルディングの手法は企業の組織づくりやマネジメントに応用され得る。 このようにスポーツには、現代社会のさまざまな課題やニーズに対応するリベラルアーツとしての側面がある。この点はスポーツやウェルビーイングに関心のある高校生が進学先を検討する際にも重要なポイントになってくるだろう。 以前は、大学の体育系、スポーツ系の学部・学科は何らかの競技の現役選手か、将来体育教員などを目指す学生が学ぶ場というイメージがあった。しかし、社会におけるスポーツの役割が変化しつつあるなかで、スポーツに関連する学びも変わってきている。現在では、リベラルアーツとしてのスポーツに注目し、多様な学びを提供するスポーツ系学部も登場。このような大学で専門的かつ横断的な知識を身につけた人材が、社会のさまざまな場で、ビジネスプランナーとして、商品・サービス開発者として、あるいはエンジニアとして、これからの社会のウェルビーイング実現に大きく貢献していくことになるはずだ。という新たなエンブレムを作成し、各競技団体やパートナー企業、自治体など多くの方により広く使ってもらえるようにしました。これによってオリンピック開催期間でなくても、TEAM JAPANとしてアスリートを身近に感じてもらえるようにしていきたいですね」 このようなコンセプトの下でオリンピックはもちろん、JOC主催のオリンピック教室や各自治体、競技団体、企業との連携によって実施されるイベントで、これまで以上にトップアスリートを身近に感じて、人々とスポーツとの接点を広げていく。こうした取組は現状でも行われているが、多くの方の協力を得て今後さらに拡大させていきたいと冨吉氏は言う。 一方、スポーツを通したウェルビーイングを実現するための役割を担うのは決してアスリートだけではない。スポーツに関して専門的に理解しているアスリート以外の人たちが活躍の場を広げていくことも、これからは大きなカギを握ることになるだろう。その意味では、スポーツやその周辺領域に精通した人材をどのように増やしていくかということも重要な課題だ。 ここでウェルビーイングに関わる産業に視点を移してみよう。前述のようなウェルビーイングへの関心の高まりのなかで、ヘルス&ウエルネスの市場は世界的に急速な拡大傾向にある(図3)。また、図4に示したようにウェルビーイングに関連する産業も、フィットネス産業や医療関係産業にとどまらず、メンタルウエルネス産業、ウエルネスツーリズム産業、職場環境産業など多様化が進んでいる。図4には含まれていないが、ウェルビーイングテクノロジーなども今後が期待される領域だ。 スポーツやウェルビーイングに関連する何らかの専門性はそれぞれの分野で求められており、産業としての拡大傾向に伴い、人材ニーズはますます高まると考えられる。また、一般企業でも人事部門やウェルビーイング担当部門などで専門人材が必要とされるようになるだろう。出所/荒川雅志(2020) 成長するウェルネス産業市場, 商工金融70(5), 54-57ウエルネス産業世界市場規模図4相補代替医療産業45兆円予防医療・オーダーメイド医療・公衆衛生産業41兆円パーソナルケア・ビューティ・アンチエイジング産業105兆円ウェルネスフード・栄養・ダイエット産業104兆円メンタルウェルネス14兆円ウェルネス不動産30兆円温浴・温熱・温泉産業4.3兆円SPA・スパ産業7.5兆円職場環境産業5.3兆円ウェルネスツーリズム産業48兆円フィットネス産業81兆円出所/株式会社グローバルインフォメーション「ヘルス&ウェルネスの世界市場:業界動向、市場シェア・規模・成長率・機会および予測(2021年~2026年)」ヘルス&ウエルネス市場は拡大予測図32020年33億1,000万米ドル2026年42億4,000万米ドル

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