キャリアガイダンスVol.443
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た。無風です(笑)。寂しさはありましたが、こうも思いました。従業員が、社長に仕えているのではなく、ビジョンに仕えている。だからもはや誰がトップでも関係ない。喜ばしいことだ」 社長就任後、千石氏は「トップダウンからチームワークへ」という方針を掲げた。それはビジョン達成に向けたマネジメント手法の違いでしかない。「千石は『私個人のビジョンと会社のビジョンは、ほぼ重なっている』とも話していました。代替わりでつまずく企業は少なくありませんが、ビジョンが確実に継承された時点で、当社の事業承継は成功したようなものです」 人ではなく、ビジョンそのものに皆が依存するようになれば、継続性が生まれる。そう中川氏は言う。向けて会社がさらに飛躍するため、そして自身は奈良での取組に専念するため、代を譲ることにした。新社長に就任したのは、2011年に入社した千石あや氏だ。中川政七商店300余年の歴史を通じて一族以外が代を継ぐのは初めてのこと。しかし社内に動揺は起こらなかったという。「社員はあっさり交代を受けいれましン達成のため」という言葉の通りに活動。各地のメーカーを再生して回るほか、工芸に特化した合同展示会「大日本市」を開催。工芸復活のためには産地全体で考える必要があることに気づき「産業観光」にも注目。手始めに、地元奈良の街を元気にするN.PARK PROJECTに取り組んでいる。 そして2018年、ビジョン達成にじようなものと考えています。その組織で働く人たちにとっては目指すべき旗印だし、経営者にとっては覚悟の表れでしょうか。よく、「なぜ今、ビジョン経営が注目されているのか?」と聞かれます。その問いに対して、「会社の存在意義が揺らいでいるから」など、社会的文脈で語ることはできますが、―高校では、スクール・ミッションの再定義と、スクール・ポリシーの策定が進められています。改めて、お二人はミッションやビジョンを、どのようなものと捉えていますか?【中川】ビジネスの世界でも、ビジョンやミッションやパーパスなど似た言葉はたくさんありますが、本質的には同単純に「皆で何かをやるときに大きな目標は必要だよね」というだけのことだと思っています。【中原】人は、先の見えないことは不安だし、目指すものがなければ、まとまることは難しいですからね。共通の目標がないことには何も始まりません。ただ、私同様、多くの人は、「売上前年比110%」といった数値目標にはあまり魅かれません。測定しやすい定量的な目標だけではなく、メンバーがワクワクするような定性的な目標も大切です。そんなことも踏まえ、「ビジョンとは何か」と問われたら、「皆でともに実現したい光景やシーン」のことだと答えます。皆の脳裏に「ああ、こういう未来が見たいな」という映像を映しだすことです。ビジョンの原義は〝Vision〞(見ること)ですから。【中川】わかります。ある菓子メーカーでブランディングのお手伝いをしたときのことです。関西の人にはなじみのあるCMで有名なお菓子の認知度を全国的に高めるミッションなのですが、数字だけで議論していても盛り上がりません。けれどゴールイメージとして、「渋谷のスクランブル交差点ですれ違った女子高生が、そのCMのフレーズを口ずさんでいるのを耳にしたとき」と提案した途端、皆のテンションが一気にあがりました。【中原】「そのシーンが見たい!」って指パッチンする瞬間ですよね。キング牧師の有名な演説なんてまさにそれ。PART1に登場いただいた中川政七商店会長の中川政七氏に立教大学経営学部教授の中原淳先生をまじえ、ビジョン経営と学校へのヒントを語っていただきました。152022 JUL. Vol.443“言語化”して「みんなのもの」にするということ。

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