千葉県南部に位置する安房高校は、120年以上の歴史と伝統をもち、進学指導重点校として地域からの期待を担い続けてきた。「地域の方とお話をすると『安房高は安房高であり続けてほしい』と皆さんおっしゃるのです。2020年度に校長に着任以来、その意味を考え続けてきました」(石井浩己校長) 創立以来の校訓は「質実剛健・文武両道」。「文武両道」を石井校長は学習と部活動の両立だけではなく、謙虚さや他者を敬う心、向上心など、学びへの向き合い方も含まれると考えている。また、「質実剛健」は人としての美しさ、品性と捉えた。「例えば本校の生徒たちは気持ちよく挨拶をしたり、体育館前に上履きをきれいに揃えることが習慣化されています。小さなことですが、こうした品格が表れる部分を地域の方々はよく見ていらっしゃいます。安房高らしさとは、学力だけではない人としてのあり方も期待されていると受け止め、それを守り続けることを学校内外で発信してきました」(石井校長) そして2021年度に入ると、文部科学省からスクール・ポリシー(以下SP)の策定が通達され、「安房高らしさ」を明文化する機会がやってきた。同校ではSP策定委員会を設置し、中堅の木戸一平先生を委員長に任命。9月にSP策定委員会がスタートした。 委員長を任された木戸先生は、ベテラン、若手のバランスを考えて8名の教職員からなる策定委員を選定。千葉県教育委員会が作成しているSP策定のための様式に従って、既存の満足度調査や新規のアンケートから学校関係者の意見を集め、情報整理をすることとした。 地域からは従来、学校に設置されている「開かれた学校づくり委員会」で定期的に学校への意見を聞く機会を設けており、その場で出た学校への期待を整理。石井校長が感じている通り、安房高生としての品格を求める声や、都心の進学校には負けないプライドも期待されていた。「以前の校長が本校を『鋸山の南の小生意気な学校』と称しました。東京の隣接県でありながら、地理的には都心が遠く感じられる場所にあります。けれど、世界に出ていこうとする意志をもった卒業生を大勢輩出しており、そうしたチャレンジ精神も期待されていると感じています」(木戸先生) 生徒の思いについては、改めて現役生や卒業生に自由記述のアンケートを実施。安房高校に期待することや身につけたい力などを尋ねた。若手教員のアイデアで、アンケートに出てきた言葉をテキストマイニング(文字列を単語や文節で区切り、頻出度などから有用な情報を取り出す分析方法)し、ワードクラウド形式で声の見える化を図った(左写真参照)。さらに、前生徒会長がGoogleのフォームでアンケートを作成し、卒業生にSNSで拡散。「学習」「部活」「その他(生活面など)」について尋ねた30項目以上に対して300名の卒業生から集まった回答を集計した。 そこから見えてきたのは、生徒たちが、社会に出てから必要となる力をつけるために学びたがっているという姿だった。「我々教員側は、生徒につけたい力をリーダーシップやコミュニケーション能力など、抽象的な言葉で表現しがちでした。地域からの期待を担う伝統校が育成すべき力とはICTを駆使し関係者の声を広く、深く見える化取材・文/長島佳子安房高校のスクール・ポリシーの策定プロセス●校内の課題感●探究的な学び検討[カリキュラム開発事業部]●SP策定委員会発足●進め方の確認●SP原案からのブラッシュアップ[策定委員会] ↓●校長への報告 ↓●SP決定● 卒業生300人アンケート[教員・生徒会]● 教職員アンケート● 生徒アンケート● 教職員研修会[全教員] ↓● SP原案作成[策定委員会] ↓● 開かれた学校委員会に原案への諮問● 地域の意見収集[開かれた学校委員会]※ダウンロードサイト:リクルート進学総研>> 刊行物>> キャリアガイダンス(Vol.443)※安房高校のスクール・ポリシー全文は小誌ホームページからダウンロードできます242022 JUL. Vol.443
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