362022 JUL. Vol.443 桜美林大学が高校生向けに提供する探究・進路プログラム『ディスカバ!』でその生徒と出会った、入学部部長高原幸治氏は、自ら学び始める生徒たちに共通する特徴を三つ挙げる。「一つ目は、目の前のことに対してなぜ?どうして?などと問いかけて『思考を繰り返す力』。二つ目は、自らの行動や考えを振り返り『内省する力』。そして三つ目は、予定通りいかない状況を乗り越えて『やり遂げた経験』があることです」(高原氏)。 経験を通じて、自ら問いを発見するのは難しい。「最初は借り物の問いだとしても、いわゆる探究的なサイクルを回し、繰り返すうちに、自分ごとになるテーマや、興味・関心がわかってくる」と高原氏は語る。実際、『ディスカバ!』でも、一度だけ探究プログラムに取り組んだ生徒に比べて、複数回、探究サイクルを回してきた生徒のほうが、指導せずとも自ら思考や内省を深めていく傾向にあるという。「目の前のことに情熱を傾けることで、自分自身に新たな学びがもたらされる実感がある。自分の学びたい気持ちが他者を動かすこともできると自信を得ていく」(高原氏)。 大学卒業後、入社した会社にずっと勤めるとは限らない時代。会社が手取り足取り社員を育成する時代は終わり、働く本人が目の前の機会から主体的に学ばなければいけない。「ある上場企業の社長は『社会人二〜三年目が、会社に黒字をもたらす人になるかどうかが決まる分水嶺』と話していた」(高原氏)。若いうちに探究サイクルを自ら回せるようになるかで差がつく時代、ということだろうか。ところが、その自ら学ぶ力について、体系的に知る専門家は意外と少ない。 こうした背景から、2023年4月、桜美林大学に教育探究科学群が設置予定だ(届出中)。教育学や探究のアプローチと、データを基に分析する科学の手法を組み合わせて、「学び」そのものを学ぶ場だ。教育と名がつくが、あえて教員養成課程を置かない。それは学校に限らず、社会のあらゆる場所で教育や人の成長を支援するプレイヤーとして活躍する人材を輩出したいという狙いからである。 あわせて選考も「経験のなかでどのように学んできたのか」、その人らしい姿を見る場へと変わっている。2022年度より、新しい入試方式「探究入試Spiral」を取り入れており、正課、正課外を問わず探究学習に取り組んだ経験、得た気づきや自己成長などを評価する。求めるのは「人のことが好きで、人の成長や自分の成長に喜びを感じられる人」(高原氏)。一生学び続ける時代の、新たな「教育の専門家」が、ここから生まれようとしている。 コロナ禍は部活動にも大きな影響を与えたが、その経験が「学びの出発点」になった生徒もいる。例えば、あるラグビー部の生徒は、練習時間や方法に制限のあるなかで、最も効果を生み出す練習方法を編み出したいと考えた。そこで、同じ状況に置かれた全国の生徒たちに対して自らの問いを発信し、練習方法のリサーチを行い、自分たちの練習に取り入れたという。半径数メートルから始まる学び誰かの成長に関わりたい人へ新しい形の「教育の担い手」に取材・文/塚田智恵美
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